ざざむし。





クルミについたクスサンを食べてみた

世界で食用とされている蛾のサナギにはいくつかある。
その一つが日本のカイコでもあるのだけど、カイコにも多数の品種があり日本以外に韓国やタイなどでも絹がとられ、いずれも副産物であるサナギは食用とされている。
そんなカイコ同様にワイルドシルク(野蚕絹)として利用されているものにヤママユの仲間がある。
エリサン・サクサン・シンジュサン・テンサンなど、繭の色や手触りは様々だが長糸による繭を作るものは古くから利用されてきたようで、これらの蛹もカイコ同様に食用となる。
日本で天然記念物のヨナグニサンもこの仲間で、タイなどのアタカス蚕のような繭らしい。
サクサンに至っては日本でも食用の蛹が500gパックで購入することができるし、居酒屋でつまみに出しているところもある。

↑ これなんかも単にカイコと書かれているが、おそらくサクサンの蛹。
扱っている居酒屋でも単にカイコとして表記しているところがあるようだが、個性が全く違うので混同してほしくない。

ヤママユの仲間で食用として最も有名な幼虫はアフリカのモパニワームかもしれない。
これは蛹ではなく幼虫を食べるのだが、食用として大量に密輸しようとして捕まったニュースなどもあるほどだ。
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そんな食用になるものが多いヤママユの仲間でも繭が頑丈すぎて一見繊維なんか取れそうにないのがクスサンだ。
大きなものだと女性の手くらいの大きさになる蛾だが、繭の形状はクリキュラ(黄金繭)に似ているので、糸が取れても紡ぎ糸用にしかならないのではないか。
私などクスサンは編む為の繊維より、釣糸の元祖となったテグスの原料というほうが馴染み深い。
古来のテグスはこのクスサンの幼虫の体内にある絹糸腺を酢に漬けて引っ張ることで生まれた、まるでナイロンのような釣糸だ。

昔は実家の裏に毎年うんざりするほど涌いてボトボト降ってきていた馴染み深い虫だったが、最近はすっかり見なかった。
都会だとあれほど目立つ黄緑に白い毛の巨大な毛虫は駆除対象以外の何者でもないしね。
先日、出先でたまたまその大量の繭に出会った。
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残念ながら幼虫の時期は終わって1匹もいなかったが、聞けば大量発生して壁も手摺りも終齢幼虫でビッシリだったらしい。
手の届く所はかなり捨てられたらしいが、それでもあちこちに繭が残っていた。
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養殖場かよwと思うほどあちこちいっぱいだった。
来年はテグスもいっぱい作って、肉はモパニみたいに干してみたいな。

クスサン蛹04ヤママユの仲間は大抵は食用にできる。
問題は、食草によって味が変わる可能性だ。
クスサンに至ってはクスノキに付くからクスサンになったんじゃないかと勝手に思っているが、実際は20種以上の植物を食べるので、何を食べていたかによってかなり味が変わるのではないか。
しかも今回のクスサンはオニグルミの大樹で育っている。クルミの果実や葉はすぐに手が真っ黒になるほど非常にアクが強いが、味には影響しないか?
でもって、問題は蛹の皮だ。
サクサンでもそうだが皮が堅いからなんとかしないといけない。

単純に考えれば焼くか揚げるかしてカリッとさせればいいんだろうが、私はあまり最初から揚げに頼りたくないというのはある。
なぜならば、昆虫を食べることになる境遇においていつも油が容易に入手できるものか?と考えるからだ。
油の材料によってはそのまま原料を食べたほうが効率よいのではないか。
また、昆虫本来の素材の味をストレートに知るには揚げる調理は乱暴でもある。
昆虫の場合、揚げればすぐ爆発してスカスカになるものも多いから、そりゃ十把一括りに「エビみたい」などという感想にもなるだろう。
かといってどんな寄生虫や細菌がいるかわからないので生食は論外。
だから蟲喰ロトワさんなんかは初物はいつも茹でて食べていらっしゃるが、理に適っているなぁと思っている。
やっぱりクスサンは「茹で」からでしょう。
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出先での呑みでしたが、しれっと茹でて味見してみました。
サクラマスのスモークうまい。
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とりあえずの味見なのでこれくらいあれば十分でしょう。
2分程度茹でただけで、塩で頂きます。
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調理したんだかそのままなんだか全くわからないポーカーフェイス。
眼じゃない黒いやつは何なんでしょうね。

張りがあり、中がとてもジューシーなので不味そうに歯先だけで噛もうとすると
ブシャッと液体が飛び散ります。
噛み千切る際にはしっかり唇で咥えた状態で口内で噛み切ると良いでしょう。
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うむ。
やっぱりナッツ系ですね。
青っぽさもあるけどピスタチオでもなし、何にいちばん近いかと言われても困るけどナッツ系。
ナッツ系なんだけど、どこかカイコっぽさもあるな。
軽く茹でただけだが見た目よりクリーミーさは弱く、ふかふかジューシーといった感じか。
懸念されたクルミのアクのようなものは感じられず、味は十分に良いほうと考えられる。
ジューシーさも単に水っぽい感じではなく、どこかオイリーな感じがある。
しかし皮が尋常ではなく堅い。この皮は食えぬ。
あんず飴のように歯でしごいて中身だけ食べる感じになる。OLYMPUS DIGITAL CAMERA
皮をなんとかせねばならぬと、軽く茹でたものを油で炒ってみた。
しかしこれでも皮が堅い。
中身の風味はさほど変わっていないので、高温でサクッとなるまで揚げるしかないか?
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生から高温で揚げると爆発するのが目に見えているので、持ち帰ったものを軽く茹で、高温で揚げてみた。
結局は揚げに頼るのか・・・
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しかしまだ堅いか・・・。
中身が縮みジューシーさはなくなってしまい、皮だけになった部分はサクッとしてなんとか食べられるがそれでも中身に触れている部分の皮は堅い。
風味は・・・これ殆どいかり豆だな。しかしパリパリ感はいかり豆以下だから不合格だ。
これでは揚げ油も中身も無駄が多くてよろしくない。
こうなると素直に中身だけ使う方向で考えたほうが賢いだろう。
この段階でようやく姿のままの調理を半分諦めた。

よく「どうして虫の姿を残したまま料理するんですか?」などと聞かれるが
「何故プチトマトをそのままサラダに入れるんですか?」
「何故イクラを潰さないで使うんですか?」
「全部ハンバーグにすればいいじゃないですか。何故ステーキで食べる必要があるんですか?」
と同じくらい愚問です。
丸ごとの調理のほうが食味のバランスが良かったり長所を最大限に活かせる場合にそうするだけで、結果的に姿がなくなる調理のほうが素材が生きる場合にはそちらを選ぶというだけのことです。

今回のクスサンの蛹の場合は、手間をかけないなら茹でて中身だけを食べるのが無難だと思いました。
手間をかけても良いのなら・・・
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繭から取り出したピコピコピコピコピコピコピコピコ元気な蛹を
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熱湯にダイブ2~3分
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半分に割って、今回は色味の問題で黒い部分だけ取り除き
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中身を全部取り出して皮は捨て、
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電子レンジでチンしたジャガイモ・玉葱・ニンニク一片に牛乳とクスサンの蛹の中身を加えミキサーで滑らかになるまで粉砕。
分量的にはジャガイモ:クスサン=1:1くらいにしてみました。
あとは粘り気見ながら適当に。

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鍋に移し、ミキサーに残ったペーストも牛乳で洗って鍋へ。
火にかけながら塩と僅かなコンソメで味を調えたら冷蔵庫で冷やして完成。
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クスサンヴィシソワーズ
とかどうでしょう。
クスサンのおかげで綺麗な緑色になりました。

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なんっだこれ

枝豆ポタージュとコーンポタージュをブレンドして香り跳ね上げたみたいな感じだ。
枝豆もコーンも入ってないのに。
これだけいじったらクスサンの風味が薄まってしまうかと思ったが、むしろ量が増えたんじゃないかと思うような満足感。
バターも使ってないのにこってりさも持ち合わせているのは、やはり蛹ゆえの動物タンパクや茹でた時に感じたオイリーさのおかげか。
ただ、フレッシュな蛹の味を知っている者が口にすればわかる程度の蛹っぽい風味も僅かに残っているので、味のまとめ方にはまだ改善の余地あるかな。
これ、もっと完成度高めていってワケわかんない横文字メニューにしてたら雰囲気に呑まれて普通にガンガン売れちゃうんじゃないの?

最終的にはクスサンの分量は全体の1/5くらいになるにも関わらず、クスサンの色とふくよかな風味がこれでもかと前面に出ているので、これは堂々とクスサン料理と呼んでもいいと思えるのが良い。
これは使えるなー
害虫だからって殺すだけがテじゃないんやで?

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Comments & Trackbacks

  • コメント ( 17 )
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  1. クスサンからテグス取るのは幼虫からですな。捌いて、テグス作る臓器を酢に漬けてから引っ張ると出来る。

    美味しそうですね。

  2. 初コメです
    リアル中高生の頃に旧サイトを楽しく拝見し、
    更新停止からサイト消滅時は大変悲しかったです
    現ブログを知り、更新が待ち遠しく仕方ありません

    今後もお体に気をつけて、無理をしてください(?)

    • あの頃と同じで飽きてるといえば飽きてるんですよね。
      だから自分の中でコレ!って何かが引っかかるものがないと更新対象にはなりにくいです。
      採集物も無難なルーチンができてきてしまっているので、それだけでも時が流れてしまいますからね。

      無理したくなるようなものが目の前にゴロゴロ現れてくれると良いのですが。

  3. 鱗翅目の成虫って食用には適さないんですか?
    何となく羽が食感悪そうですけど

    • カイコも成虫の佃煮なんかが商品化されてきた通り、全く食用にできない訳でもないんです。
      特に雌は卵を持ってるとプチプチ感がよかったりもするので。
      ただやっぱり羽は美味しいものでもないし、中にはドクガみたいな鱗粉が厄介なのもいるのでカイコみたいに羽が小さいほうが食べるには快適だと思います。
      あとは何より、幼虫や蛹はまとまってとれるケースが多いけど、成虫を大量に捕らえるのってライトトラップ仕掛けてもこんなには集まらないんですよね。
      成虫が驚異的に美味い!とかでもない限りは、労力を考えると結果的に幼虫や蛹に偏ってしまいます。

  4. 皮ひん剥けばサナギマンも大したことないのですね。
    クスサンの幼虫、子供のころ怖かったです。

    • イナズマンのサナギは美味いかどうか知りませんが久々に聞いたわw
      幼い頃は刺されるかどうか調べる手がなくて手の上を這わせるくらいしかできなかったですね。

  5. 更新お疲れ様です。
    「今回の」クスサンはオニグルミで育っているのですね。
    私の実家の近隣には栗の木があり、そのためか昔はクスサンの幼虫を至る所でよく見ました。しかし駆除対象というのは伊達ではないらしく、十年近く繭どころか幼虫の影も形も見ておりません。農薬スゴい。
    毒は持ってないようですが、如何にも毛虫といった見た目やサイズのゴツさから忌避されるのでしょうか。農家の方にとっては食害が何より一番怖いのでしょうが…

    サイズがデカい幼虫ってのは比例して皮もゴツくなるんですかね。
    昆虫学者のファーブルがカミキリムシの幼虫を食べていた場面を彷彿とさせました。
    淡い緑の中身がキレイですねえ。
    >>枝豆ポタージュとコーンポタージュをブレンドして香り跳ね上げたみたいな感じだ。
    って記述や蛹のサイズといい、ずんだクロケットとか言って客に出してもわからねえなコレ!

    スープですが、美味しんぼで海原雄山がwitchetty grubを裏ごして、至高のメニューとしてポタージュを出していたのを思い出しました。
    まさか現物にお目にかかれる日が来るとは…!

    • 実家の裏のはイチョウに付いてましたね。
      あれもあと時を境に完全に消えてしまいました。

      美味しんぼは所々かじっていただけなので知りませんでしたが、さすが長いだけあってなんでもやってますね。
      あれはヤママユとは全く別物っぽいですが、どんな風味なのか実際食べてみたいものです。

  6. ミッキーアイル

    学校に大量発生する奴ですね。気になりますが、やはり釣り人としてはサクラマス美味しそう(^_^;)

  7. 正直、幼虫や蛹は、蚕・スズメバチ・蝉しか食べたことありませんでしたが、これを見ると・・・蛹の皮むいたヤツ、美味そうですな。
    ・・・そういや毎年実家のナノミに沢山のシンジュサンの幼虫がいたな・・・。
    ヨトウガの蛹は色味で萎えそうだもんなー。どうせならシンジュサンから挑戦したいな~。

    • シンジュサンは昆虫食を研究してる方々は結構食べてるみたいなので美味しいんじゃないでしょうか。
      やはり食草によって変化はあるっぽいですが、ナノミで育ったものがどうかって話は聞いたことがないです。
      食べ頃は前蛹か蛹ではないかと。

  8. ブレッド・ブレッド

    普通にうまそうですね。
    いつもながら感心しました。

    ところで写っているかまぼこは富山県のですか?

    • なんとなく合いそうだなと思ったらアリでした。

      よくご存知で。近いものは石川にもあるらしいですが、どうも富山にしかないらしいですね。あんなにいろんなメーカーが作ってるのに富山だけって面白いなと思いました。

コメントしたければしてもいいのよ?(カエストハイッテナイ)

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