ざざむし。

毒について

むか~し昔に中てられたヒガンフグの写真が出てきた。
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いままでいろいろ食べてきた中で、明確にやっちまったと思ったのは唯一この1匹だけ。
ヒガンフグはフグの中でも特殊な存在で、季節だけでなく地域で毒性差があり、筋肉の毒性すら跳ね上がるので特定地域で出荷が禁止されている。
講義で習って当然知っていて、相模湾なら大丈夫だろと高をくくっていて中った。
もちろんフグはフグ調理師免許がないと他人に食べさせればお縄になるが、自分で食べる分には自己責任。
こうしてアホな人間は淘汰されていくのである。

東京湾を中心に、通称アカメフグと呼んで食べられているのがこのヒガンフグ。
汗が噴出し、心臓が締め付けられるような感覚がきて呼吸が苦しい。
ほっといたら2時間くらいで治まったからいいけど、その後少し身体が重かったような記憶がある。
こんな小さいの1匹でもヘタすりゃこれである。
普段釣れるヒガンフグは重量でこの4~6倍が多いから、それだったら死んでいたかもしれない。
クサフグでも中ったことがないから処理の問題ではなかったと思っているが、こういうリスクはあるということだ。
おかげでさかなクンのようにTTX耐性がある訳ではない普通の人間であることは証明されたからまぁいいやね。

こういうことをやっているとよく言われることがあります。
「寄生虫が怖くないんですか?」
「毒が怖くないんですか?」
この2つはもう定番。

寄生虫については知識を得た上でも「可能性」の話になってくるけど、加熱する分には問題ない。
寄生虫の種によっては見えないサイズのものも多いので、二次被害を防ぐ為に調理器具の熱湯殺菌処理を。
これだけ守っていれば、まず問題は起こらないはず。
生で食べる場合は自己責任、冷凍で殺せるものは必要な冷凍レベルの確認を。
生食は店で食べていても中る可能性があるが、そういう意味では自分で調理していると中ったとしても原因の目処が付け易いので、むしろ安心感がある。

については、怖いものと怖くないものがあります。
そもそも生物の毒って何なのか。
広義でいえば生物の生命活動にとって不都合を起こす物質の総称です。

様々なタイプがあるけど、食べることを前提に考えた場合
1)毒そのものが不味くて食べられないものはその要素を取り除く
2)致死量や後遺症に繋がる量があり、それを超えなきゃなんとかなる

大きく分けてこの2つだと思います。
猛毒で有名な生物毒は、それらが微量すぎるゆえ「食べる=死」みたいな捉えられ方をしているけれど、全身が猛毒の生物ばかりではないのです。

1)毒そのものが不味くて食べられないものはその要素を取り除く
人間が感じる苦味はもともと体に悪い物質に対する拒絶反応のひとつだという話があります。
たまたま不味いだけの場合もあるだろうけど、生物もそれを利用して忌避物質を纏っているものは多い。
痛いとか、辛いとか、苦いとか、臭いとか、そういうのは毒の可能性がある訳です。
死なないとしても、美味しく食べられないのでは意味がない。

食材として流通しているものだと「つぶ貝」の唾液腺なんかもこの部類。
ややこしいことに、日本各地で「つぶ」の種類が違う。
丸ごと食べて平気なものも多いのですが、中には適切に調理しないと食えたもんじゃないものもいます。
中には唾液腺にテトラミンを含む種もおり、「つぶ」と言われて安易に食べてハズレを引くことになる。
テトラミンは神経毒で、煮ても分解されない。むしろ煮てしまえば全体に渡ってしまうと考えたほうがいい。
「つぶ」に限らず、唾液腺にテトラミンやその他の毒を含む巻貝は結構いるようだが、無数にいる種類を覚えるより「肉食巻貝を警戒する」形で簡単なほうから覚えていくのが楽で良いと思う。
この辛さは「塩辛さ」でも「熱くなる辛さ」でもなく、痛辛い感じの嫌な辛さだからすぐわかる。
割って取り出し、生で唾液腺近辺を舐めてみて強烈に渋かったり辛かったりしたら唾液腺周りを切り捨てる。
キンシバイなど筋肉にまでTTXを溜め込む一部の貝を除けば、これだけで美味しく安全に食べられるものは多い。
死なないからと甘く見ていると神経毒の影響で視覚障害や眠気が発生する場合もあるらしく、二次災害の可能性もあるので安全には留意して食べたいものです。

毒があっても食用として有名なところはフグでしょうが、フグは種類毎に部位や季節による毒性の頻度が異なっていて特殊で説明が長くなるので横に置いておきます。
他にはオコゼなんかも有名でしょうが、こちらはわかり易いですね。
オニオコゼは棘条で肌を傷つけることで毒が侵入するタイプなので、問題となる棘だけなんとかしてしまえば問題ありませんし、加熱してしまえば毒性すらなくなります。このタイプの魚は非常に多く、不遇な対応をされているものが多い。
物理的に取り除く以外に、化学的に不活化させるものの一つがタンパク毒など加熱で無毒化できるものですが、加熱信者と冷凍信者はなんでも「加熱すれば大丈夫」「冷凍しとけば大丈夫」と思って時々問題を起こすので、身近にいる人は要注意。

毒ヘビなんかはもっと簡単で、頭を切り落としてしまえば日本ならどんなヘビも殆ど関係ない。

要するに、生物にとって毒とは身を守ったり狩りに使う武器な訳で、
武器を取り上げてしまえばただの食材です。
その無力さは腕を折られたボクサーとか、無人島に手ぶらで放り出されたスーパーハカーみたいなものです。

2)致死量や後遺症に繋がる量を超えなきゃなんとかなる
ちゃんと理解すれば、恐れるべき毒と恐れるに足らない毒があって、知らなければ意外なものでも死ねます。
極端な話、水や塩だって致死量はある訳で。
6Lも一気に飲めないから水飲むだけで死ぬ人はそうそういないと思うけど、塩の致死量は大匙16杯。
激辛我慢みたいなノリで塩辛我慢なんてやるバカちんが現れれば死人は出そう。
逆に超強力なものではクモ界世界最強の毒をもったカバキコマチグモなんて昔から日本中の草原に普通にいますが、噛まれても毒量が少ないので死亡例もないというのが良い例でしょうか。

今の時代は便利なもので、名前さえわかってしまえばちょっと検索するだけである程度の毒性がわかるものは多いです。
致死量についてはLD50値(Lethal Dose 50%の略)で記されていることが多く、体重1kgあたり何mgの投与で二人に一人は死ぬという数値です。
単純に自分の体重を掛ければ大まかな致死量は算出できます。
問題は、毒そのものが塊で存在している訳ではないので、どの部位にどれくらい含まれているかというところから逆算して、有毒部位を食べる場合は想像で安心感を得られる量に留めることになります。
もちろん、死ななかったとしても目測を誤れば死に瀕する可能性はあります。
個体差もあるだろうし、これはちょっと怖い。
まぁ、変態に任せておく領域で良いと思います。

また、フグ毒で有名な毒の表記にMU(マウスユニット)もありますが、MUは毒成分そのものではなく、実際に食べた場合にどれくらいの影響が出るのかという参考になる数値です。
「体重20gのマウスに物質を腹腔投与した際、麻痺性貝毒で15分、下痢性貝毒で24時間、フグ毒では30分で死亡させる毒量が1MU」と定義されており、100MUならば同じ量で100匹のマウスを殺せるだけの毒を含むことになる。
単純にこの数値が高い部分は食用とするには避ければ良い話なのだが、大事なのは食品衛生法で定められているのはこの数値がゼロな訳ではないということ。

例えば、麻痺性貝毒では可食部1グラムあたりの毒性が4MU未満ならば出荷停止にならない安全とされている。
これって一見わかりやすそうだが、わかりにくいのがお約束だ。
つまり、乱暴に言い換えれば10gの剥き牡蠣やホタテ1個で39匹マウスが殺せる毒量までなら人間には問題ないと言っている訳だ。
マジで?
だって、普通は何個も食べるでしょ?
そう思った人も多いんじゃないでしょうか。
これが守られている限り食中毒事件は起こっていないんだから、人間って結構丈夫なもんなんですよ。
これを知っただけで腹が痛くなるような人は、自分の食べているものを知れば知るほど何も食べられなくなると思います。
大切なのは、どれくらいなら大丈夫なのかということを、知識と身体と心で理解していくことです。
毒の多くは体重あたりで個人差が出ますから、当然、子供のほうが死に易くなります。
メチルピリドキシンによる銀杏中毒の目安に子供:大人で7:40粒という差があり、耐性の差もあるようで、体重以上のこの差の開きは他の毒についても十分に考えられることです。
大人の感覚で子供を巻き込まないように注意も必要です。

毒は無数に種類があり微量で致命的になるものもあり、死なずとも一生の後遺症を残しかねないものもあります。
安易に口にするべきではないと思いますが、過剰に恐れるだけではいけないものだと思っています。
しかしここまで記したような急性毒性のタイプはまだいいんですが、蓄積型の毒となると未来が見えないのでとても他人には勧められません。
このあたりを踏まえてはじめて、「自己責任」で食べています。
だって、
皆が避けてるのに実は安全に美味しく食べられたら素敵じゃない?

そういう意味では、キノコがいちばん訳わからなくて怖いんですけどね。
いつどこで変異が起こるかわからないような不思議さが魅力でもあるんですが。

ちなみに先日の野食新年会で煮た貝の中にしれっと混ぜてましたが、ボウシュウボラはフグ毒で有名なTTXを蓄積する大きな巻貝です。
中腸腺を中心に蓄積するようですが、ヒトデなんかも喜んで食べる貝なので生物濃縮されるものだと思います。
フグ毒を含むけどフグ調理師免許も不要で、知らずに丸ごと煮て食べれば中毒する可能性はあるでしょう。
でも調理前に内臓と唾液腺さえ捨ててしまえば、ただの美味しい貝です。

ミンナ シナナクテ ヨカッタネ!

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Comments & Trackbacks

  • コメント ( 12 )
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  1. 上に表示された~変な言葉多いな

    このページTOPに持ってくるべきでは?
    と思わんでもない

  2. テトラミンというと魚の餌を思い浮かべていかん

  3. ご報告です。
    結果3日ほど住んでましたが昨夜無事に消化?されたようです。

    昨夜は快気祝で残りたべました。

  4. 私は毒がある魚は、ふぐしか釣れた事がないので毒についてはコメントできないですけど
    ゴンズイやアイゴは今年は釣って食べてみたいですね。

    せつなさんのブログを拝見してると、色々食べてみたいものが増えてきます。

    ブログのリンクをさせて頂いてよろしいでしょうか?
    お返事待ってます♪

    • レス遅くなってすみません。
      リンクはご自由にどうぞ。

      そういえば本文中に書こうと思って忘れてましたが、ウナギもコイも毒ありますしね。
      ウナギは失明するレベルらしいし、コイは死ぬレベルだとか。
      常識的に扱ってる分には問題ないものって意外に身近にあるんですよ。

      ゴンズイはまだしも、アイゴは処理の仕方でめちゃくちゃニオイに差が出るので注意してくださいね。

  5. 自分薬剤師なんですが、ある意味医薬品に近いものがありますね。
    副作用を過度に恐れるあまり薬を飲みたがらず、薬の効果を得られない患者と
    毒を過度に恐れるあまりに美味いものを食べないっていう状況が。

    有毒動物に対する食欲を乱すのは「恐怖」、だが「恐怖」を知識が支配した時
    食欲は正しく乱れない。
    有毒動物の味は知識の産物。
    人間のすばらしさは知恵のすばらしさ

    というようなことを昔の英国紳士が言ってました。
    まぁメーカーや当局が補償してくれるわけではないので食うのは自分ひとりかせいぜい
    同じような考えの同行者だけですが。

    • 全くその通りだと思います。
      わざわざそんなもの食べなくても、とよく言われがちですが、他国から見れば日本人が普通に食べてるものだって異常なものはいくらでもある訳ですし、毒も似たようなものです。
      シイタケを毒菌扱いしてる国だってあるんですからね。
      生で食わなきゃいいってだけなら、作業的にはタンパク毒と同列なのに。

      薬と毒って紙一重ですし、そういう知識があるのは羨ましいです。
      若い頃の自分に、もうちょい勉強しろと言いたいw

  6. 東紀州ヒガンフグを銛で突いて食べる部の者です。
    当地では出荷規制が無くガンガン売られているため私も慎重に解体して食べていますが、
    (数年に一度、精巣などを食べる漁業関係者が「不運」と「踊」っちまうことはあります)
    太平洋北部では筋肉まで有毒化すると知っていますので心のどこかで安心しきれないでいます。

    ヒガンフグを大量にクーラーボックスに入れると、蓋を開けた時に鼻にツンとくる刺激臭がある気がします。
    テトロドトキシンは無味無臭らしいですが、自然下でフグを噛んだ魚は吐き出してしまうらしいですし、なにがしか無関係ではない気がしています。

    • 絶対大丈夫だと思ったんですが、油断は禁物だと反省しました。
      以来、覚悟して食べていますw
      だいたい1匹しか持ち帰らないのでそんなにニオイは気になった記憶がないです。

      ヒガンはわからないですが、TTXをもったフグは淡水フグですら他の肉食漁は避けますね。
      昔、少し熱帯魚を飼っていたことがあるのですが、一口サイズなのに全く食われないのでナイフフィッシュと一緒に混泳させてずっと飼ってました。
      魚は体表でかなりの情報を感じ取れるので、多分ニオイなり味なりで食うべきじゃないのがわかるんでしょうね。

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