ざざむし。

ジャンボタニシとどう向き合ったらいいのか

ジャンボタニシといえば名前だけは聞いたことがある人も多いでしょう。
特に関西方面に広く増えているので水辺を覗く人にとっては有名な外来の巻貝ですね。正確にはスクミリンゴガイといって、タニシのように水中生活をしてはいますがタニシとは遠い。イネや水草などの害虫として影響が大きく日本・世界ともに侵略的外来種ワースト100に選定されており爆発的な繁殖力を誇る。

ちなみに魯山人が好きで死因となったと言われるタニシはマメタニシなのか他の在来タニシ4種のいずれかで1959年当時にはまだ輸入もされていなかったスクミリンゴガイとは全くの別種であり、肝硬変による死因の原因となったジストマとは問題となる寄生虫も変わってきます。

私が初めて実家の近所で遭遇したのは小学4年前後の頃だったでしょうか。見つけた時はネットも携帯もない時代で全く情報がなかった中、直径7㎝を超える大型だったために興味深々で釣鈎を引っ掛けて持ち帰り金魚を飼っていた水槽に放り込みました。ところがコケよりも水草と金魚のエサをモリモリ食う始末で、ある日脱走したと思ったら室内の壁に見たことのないピンクの卵を生んでいました。
なんじゃこりゃ…と不気味に思った時はまだそれがスクミリンゴガイの卵だとは理解しておらず、気味の悪い卵は壁からはずして隔離、床を歩いていた本体は水槽に戻しました。2週間くらい経っていたかもしれませんが、ふと気付いたら卵が割れて小さな丸い貝が転がっていて、そこで初めてあいつの卵だったのかと気付いたのを覚えています。
それから1ヵ月も経たずして新聞にジャンボタニシのことが掲載され、広東住血線虫がいる可能性があり危険なので触らないようにという注意喚起が学校でもされた記憶があります。ウチの水槽にいるよって話になった思い出。


これが木の実だったら美味しそうにも見えるかもしれないけど、コンクリの壁にこの卵塊が無数に付いているとヤバそうにしか見えないので人間の判断基準ってのはいろんな経験から成り立ってるんだなぁと感じる。


潰れる感触はちょっとカタツムリの卵に似ていて、極薄で硬質な殻がカシャッと壊れる感じ。
この卵を捕食する天敵は日本にいないのだが、水中で孵化できないので発見次第かたっぱしから水に落とすことで駆除が進められる。とはいえ、短期間に複数産卵するので少しサボればすぐ元通りのイタチごっこ。

卵にはPV2という神経毒があるらしく、アメリカではヒアリ以外に襲われることはないという。タンパク毒なので加熱分解して毒性は問題なくなることがマウス試験で実証されているようだけど、ヒトは苦味を感じ、毒をどうにかできたとしても美味くないんじゃ食べる意味もない。
ということは、産卵前の体内にある卵巣もピンク色なので、おそらくあれも不味い有毒部位と考えられ食べないほうが無難ということになる。昔、探偵ナイトスクープで卵食べてドブ味って言ってた気がするけど育った水質によっては風味もそうなることはあるだろう。元々は大型で淡水養殖可能という利点を活かして食用に1981年に台湾から移入され、1983年には養殖場が500か所にも増えたという。しかし1984年には有害動物に指定され、廃業撤退なども相次ぎ、私が初遭遇したのもまさにその頃なので近くに養殖場があったんだろう。当時は苦味も旨味みたいな感じで店でも卵巣ごと提供していたんだろうか?

脱走癖のある生物なので当時のザル管理では自然界にバラ撒かれてしまったのも頷けるが、水田の被害は大きかった。
しかし何故そんな生物がいまだ特定外来生物に指定されていないかというと、その習性を利用した無除草剤農法を行っているところがあるからだと思う。


スクミリンゴガイは冬季など水がなくなると冬眠するが、休眠するのは冬季に限らない。
渇水すると休眠する習性を利用して雑草だけを優先的に食べさせる無農薬除草なのだが、それを行っているところはいいのだけれど、微妙な水位調整が必要なので関係のない水田に侵入したらイネそのものが食害に遭ってしまうのです。


なんの対策もしていない水田にはこんな穴だらけの緑が広がります。
彼らが突然進出してきた地域では対応のしようがありませんね。


対策しててもしていなくても、やっぱり日本にはこのショッキングピンクの卵は似合わないよなぁと思うのですが、ここまで広まってしまうとなんとかして付き合っていくしかありません。無除草剤農法は現にかなり効果が高いそうなので、できる地域では実行していくのが賢いでしょう。ただ、事は水田だけで済む話ではないので無関係な場所では駆除せざるをえないケースはいまだ多いのではないかと思います。
沖縄なんかはオオウナギがいそうな場所は卵塊があっても僅かで、そのように在来の天敵が自然分布しているならば影響は少なそうですが、天敵の少なそうなところは海外であっても彼らの天下で、条件によっては水草なども食い尽くし浄化能力もなくなって見るからに死のドブのできあがり。

成体に対しては鳥や亀、鯉などが天敵になるようですが、天敵となる生物はヒトの都合のいい対象だけを食べてはくれないから安易な天敵農法には頼らないほうがいいのは歴史が物語っています。かといって人力駆除がどの程度有効かというと、以前帰省した時にあれほどいたスクミリンゴガイが激減していたのでどういうことかと聞いたところ、定期的に地域で人力駆除して潰しているんだとか。人力でここまで減るものかと思うくらい減っていて驚いたのですが、次に帰省した時にはまたいつも通りに増えていました。空しいですね。

そんな訳で、こんな農薬も発売されています。
主成分はメタアルデヒドなのでナメクジやカタツムリの駆除剤と同じです。実際の被害を目にするとまぁ仕方ない気もします。
摂取した個体は大抵死んでしまうのでしょうから食用として捕獲する際には(爆発的にいる=散布されていない)と考えれば関係なさそうには思えますが、魚など他の生物に残留する可能性などは残っている為、昨今の一部野食ブームを見るにスクミリンゴガイ自体に興味はなくとも観察眼をもって散布の可能性などは意識しておくほうがよいかもしれません。(これに関わらず、生物だらけの地域なのにイネ以外に全く生命感のない水田に遭遇するとその辺りは食用にはちょっと避けたくなりますよね。)

という訳で、元は食用移入なのですから安全面や被害抑制面など諸々考慮した上で食べたい人は採って食べるのもアリなのではないでしょうか。


いまや中部以西のドブ川や用水路に大きなタニシっぽいものがたくさん見えたら多くはオオタニシではなくスクミリンゴガイだと思います。


水際に網を当てて10数m歩くだけでこんな感じ。
大きくて簡単にたくさん採れるということだけを考えると、それは食材として優秀です。


交接しているものもたくさんいます。
これがどんどん卵を生んで増える訳ですから、水際で我々が天敵になるのも良いでしょう。


私の実家周辺は定期駆除を行っている為か、昔ほど大型はあまり見かけなかったです。
野放しになっている場所ならば子供の握り拳大で容易に可食部位が大きくとれる個体が山ほど採れるでしょう。


スクミリンゴガイは現時点では特定外来生物に指定されていないので生体運搬も飼育も可能です。つまり、いわゆる泥抜きという工程が可能なのですが、注意点としては絶対に脱走させないことです。
バケツに水を張っただけなど論外で、数mの壁だって楽に脱走するでしょう。歯も結構強いので薄い網を張っても穴を開けられる可能性があります。↑この写真のように絶対逃げられない虫カゴのようなケースで泥抜きすればかけ流しもできるし、水換えも楽です。
大繁殖している地域の方ならまぁ脱走されても元居た場所へ戻っていくだけかもしれませんが、他地域へ持ち出す方は特に厳重な管理をお願いしたく思います。

泥抜きという工程に関して言うと、私個人としてはなんでもかんでも有効な手段だとは思っていません。
しかしスクミリンゴガイに関しては次からの工程を見れば泥抜きがある程度意味あるものだとわかると思います。


泥抜きをしたもの、または綺麗な場所なら採ってすぐでも構いませんが、一度バケツでガシャガシャとよく洗って表面を綺麗にしてから沸騰した鍋で茹でます。
殻から外す為と、広東住血線虫を無害化する為に茹でるだけなので再沸騰するくらいまでの短時間で大丈夫。茹ですぎると出汁は流出し未消化物などの臭気が筋肉にも移ります。


簡単に中身が抜けるので楊枝などでクリクリと抜いていきます。
完全養殖で美味しくなるエサで育てたものであれば内臓まで含めて美味しく食べられるのかもしれませんが、ドブ産の未消化物はドブな訳ですから基本、内臓は捨てます。捨てるんだけど、茹でる段階でドブ臭さが筋肉に移るのを最小限に抑えたいのでドロ抜きがある程度有効です。1日でめちゃくちゃ糞しますからね。であれば「生で殻割って足だけにして茹でれば泥抜き不要じゃん」って思う方もいるかもしれませんが、それだと茹でるまでの広東住血線虫の危険が高まりますよね。あとは宍道湖のシジミの実験でゲオスミン濃度が3日程度で激減するデータがあるので、この程度のサイズの水棲生物であれば短期間の代謝である程度臭味を抜くことは可能と考えられ、スクミリンゴガイの泥抜きに関しては差が出ると思っています。


という訳で、サッと茹でて軽く塩で揉んでヌメリを流した状態です。
こうなってしまえば臭味も弱く適当な料理に使えます。2日も泥抜きしてあれば臭味は殆どありません。
よほどの汚染水域でもないサバイバル条件下ならば即茹で殻外して揉み洗いだけでそれなりにイケますが、ヨモギで揉み洗いするなどで対策すればシジミ程度の臭味はなんとでもなると思います。


歯応えはとても良いです。
タニシのようにぬたでも良いのですが、在来タニシほどには特徴的な風味がないので味自体は物足りません。
合わせる青菜はヤブカンゾウのようなクセのないものか、逆に歯応えだけと割り切ってニラなど強いものと合わせるなど両極端が良いような気がします。


大きくて歯応えが良いので田楽や焼き物炒め物などは各種調味料で楽しめます。味の濃い中華な炒め物にすると味はもうなんだかよくわからない。
同じ食用移入由来で拡散した生物としてはシンプルに食べるならばアフリカマイマイより断然スクミリンゴガイのほうが貝らしい旨味はあるように感じます。歯切れの際の表面の食感も上。茹でた際にアフリカマイマイほどローションの如き凶悪なヌメリが発生しないのも処理がしやすくて良い点です。
比較対象がアレではあまり意味ないかもしれませんが。


歯応えがわりと良いけど、味はそこまで突出しないので強い味をつける洋風料理には結構使えそうな気もしますが、あまり料理しない人なので単純なものしか試していません。
少なくともバターには合います。
一般流通している海産巻貝類 >> スクミリンゴガイ > アフリカマイマイ > カタツムリ ≧ ナメクジ
こんな感じでしょうか。ブルゴーニュ種のめちゃくちゃ美味いエスカルゴ料理など確認した上で食べた記憶がないので比較のしようがないですが、タダだと思えばスクミリンゴガイもわりと良い食材だと思います。

ただ、大きくて歯応えよく食べ応えがある以外の突出したものがなさすぎて、流行らなかったのも理解できてしまうのが悲しい。
10品くらいは試してからUPしようと思っていたのだけど、その後しょーもない「カタチだけやってみました」みたいな結果しか出てこず蛇足ばかり。乾燥スクミリンゴガイも消費しきれておらず、皆さんがんばってくださいという気持ちです。
結局この生物も自然環境が清涼であればもっと気楽に美味しく食べられるであろうに、汚い場所が増えているばかりに一手間がハードルになっていることは否定できません。かといって養殖は簡単なので美味しく育てることは可能かもしれないけど、万が一再び試す人が増えた時の生息地外での脱走の可能性を考えると被害実態を目にしている身としては今更広めたくもないのでやりません。
残酷だけど無除草剤農法を行っていない地域で卵を見かけたら水に落とすのがいいでしょう。
黄変種のゴールデンアップルスネイルも同じですが、くれぐれも自然界に脱走だけはさせないようにしてくださいね。

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Comments & Trackbacks

  • コメント ( 4 )
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  1. 敢えて食べるなら、クリーム煮かクリームスープが良いような気がします。

    相変わらず、自らの身体の是非を問わない姿勢は頭が下がります。
    ご自愛ください。

  2. ナメクジやカタツムリって素手で触っちゃだめなのか・・
    うちのばあさんはすごく触ってたな・・・

    どうでもいいことですが充血を引き起こす線虫みたいになってますね。

  3. 水汲みに行く湧水地のすぐ隣の水田にウジャウジャいますが、希少な水草が食害されないか心配ですね…発生時期は食べて駆除してます。水が綺麗なおかげで泥抜きしなくてもドブ臭さがないのはありがたい

  4. 小学生の頃、近所の溝にウジャウジャいたので掬って遊んでましたねえ。
    広東住血線虫の宿主になると知ったときはよく感染しなかったと青くなった思い出も。
    ここ数年でとんと見かけなくなったのですが集団でどこかに移動しちゃったんでしょうか・・・。

コメントしたければしてもいいのよ?(カエストハイッテナイ)

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