2017年はモンクロシャチホコが多くの県で大豊作だったようですが、探していると当然ほかの虫にも出会います。
昆虫は食性に沿った風味になるものが多く、モンクロシャチホコの幼虫はそれゆえに人気になった筆頭のような昆虫です。
何も人に食べられたくて桜を濃縮している訳ではなく、桜の風味であるクマリンはネズミなど一部の動物に対して毒性を持つので防御の為に蓄積しているものなんでしょうが、そのせいで昆虫食を嗜むホモサピエンスに大人気になってしまうとは皮肉なものです。
では、モンクロシャチホコ以外の桜を食べている昆虫はどうなんでしょうか。
モモスズメ
モンクロシャチホコを探していたら見かけた一際大きく目立っていたモモスズメの幼虫。
スズメガの仲間は大きなものも多く、世界でも食用にされているものが数あります。
小指ほどの太さがありボリュームばっちり、桜を食べているならさぞや美味いのではないかと期待。
ところが、茹でて食べてみたところそんなたいしたことないというか、やはり未消化物が幅をきかせすぎていて甘味はあるんだけど桜の葉ピューレ食べてるのかなんかわからないし、未消化物もモンクロシャチホコほど桜香が前面に押してくる感じじゃない。もうちょっと身が厚いかと思ったんだけど期待を裏切られ、これは前蛹か蛹まで待ってからのほうが良いのではないかと思った。
モンクロシャチホコより数倍大きな糞なので糞茶の収穫も楽そうだが、内容物の香りからしてあまり風味は期待できないかもしれない。残念ながら糞は捨ててしまったので試せなかった。
モモスズメに関しては蟲喰ロトワさんが詳しく書いておられるのでそちらを読んで頂いたほうがいいと思う。
モンクロギンシャチホコ
これも初めて見たのでどのくらいまで大きく育つのかわからないが、1匹しかいないのでシンプルに茹でていく。
はい。
噛むと意外に肉が厚く、甘味と桜の香りはあるのだが、桜だけ食べてるはずなのに内容物から妙な酸味を感じる。
大きさの割に酸味が強く、香り・甘味とマッチしておらず美味しいとは言いづらい。モンクロシャチホコにギンが付いただけだが味の面ではだいぶ落ちる感じで、まとまった数がとれる訳でもないなら食べる価値なしで良さそう。
チャエダシャク?
エダシャクの仲間は一見すると似たようなものが多くていまいちよくわからない。
茹で。
すっっっごい桜餅香。
これはモンクロシャチホコに対抗できるくらい香りが強い。甘味もあり嫌味はない。
葉を磨り潰しただけでは桜餅の香りはしないが、モンクロシャチホコやチャエダシャクなどが消化にかかるとクマリンが多く合成されるのが実感できる。しかし、いかんせんチャエダシャクは小さく数がとれない上に、御覧の通り肉はペラッペラで殆どが未消化物。あまりに食べ甲斐がないので偶然いたらついでに入れてしまえという程度で良い気がする。
エダシャクX
なんだこのでかいエダシャク!
6㎝超えてますが私には種類がわかりません。
教えてエライ人!
茹でたらちょっと縮んだ。
見るからに未消化物がたっぷり入っているのがわかりきっているのですが、チャエダシャクがあまりに芳香の塊だったので、あえて糞出しなしでいこうと思います。
・・・・・・。
ダメです。
なんかエグ味がある。しかも桜の香りが薄い。モモスズメより更に薄めかも。
このエグ味は消化液の違いによる未消化物が原因なんだろうか、絞り出して食べてみるか。
あかんわ。
ただでさえ薄っぺらくなった肉なのに甘味薄くてエグ味も健在。大きいだけで食べる価値なしだわ。同じサクラ食べてる同じエダシャクの仲間なのにこんなに違うのか。
ヒメクロイラガ
イラガの仲間は刺毒が強いのでモンクロシャチホコと違って気軽にわしゃわしゃ摘んで収穫できないのがマイナス点ですね。
上から時計周りに、素揚げ・バター焼き・茹で。
揚げるとすぐ風船のように膨らみ、冷めると速やかにぺちゃんこになってしまいます。
香ばしい中にふわりと桜の香り。
苦味もなく食べ易いですがインパクトはあまり高くない。
バター焼きは無難な旨味でモチモチ感もある。
ほんのり桜の香りは揚げたものより若干強いがバターと喧嘩してる感じ。
茹でたものは最も香るが、まだ前蛹に至っていなかったからか未消化物が多く、この風味が弱い。チャエダシャクの半分くらい、モモスズメと同じくらいな感じか。おまけに僅かに苦味を感じ、正直イマイチ。
毒棘に関しては茹でるだけで無力化できるので問題なく、刺さりはしないが噛むとポリポリ響いて悪くない。
イラガ
ヒメクロではない、ノーマルのイラガも同じだろうか。
立派なものを見つけたので試してみよう。
こいつも小学生の頃は何度も刺されて酷い目に遭っているので扱いには注意したい。
風が強い時は葉についたまま持っているほうが危険で、手に乗せて歩いたほうが安全なことも。
イラガはその毒性から嫌われる傾向が強いですが、腹脚の吸着力が独特な感じがして気持ちがいいので可愛く見えてく思います。刺されなければどうということはない。ただし不意打ちされたら許さない。
全て終齢幼虫で、上から時計周りに、素炒り・素揚げ・茹で。
ヒメクロイラガでバターが合わないのではないかと感じたのでイラガのバター焼きはリストラ。
茹でたものは未消化物にしては固形物がないし、これはどういうことか。もう蛹化に向けてスタンバイ中だったのか。
とてもよく香るクマリンと蛹化に向けてか厚くなっている肉の甘さ・旨味が合っていてとても美味い。
棘はポリポリとアクセントになってこれも良い。皮も薄いので違和感なく食べられる。
素炒りがこれまた美味い。
香ばしくなった棘や外皮の中から半熟オムレツのような旨味の詰まった肉が現れ、ほんのりと桜の香りがする。桜がどうのというより、純粋に肉の旨味がとても良くて上級の虫。これも蛹化が近く未消化物がなったのが良かったのかもしれない。
素揚げ美味しい。
これも基本的な風味は素炒りと変わらないが、揚げたことで外皮が何故か揚げたて油揚げの風味。
おつまみに最高だ。
ヒメクロイラガは土に潜って蛹になるようなので蛹を見つけるのは大変ですが、イラガの蛹や前蛹はこの目立つ繭を採るだけなので簡単です。
ちなみにヒメクロイラガは蛹まで育ててみようかと思ったら潜れるところがなかったからか野たれ死にしてしまい失敗しました。
イラガの繭です。
長い期間、繭の中で前蛹のままなのでどのタイミングで割ったら蛹になっているのかよくわかりません。
ちなみに私の過去最大のイラガによる身体ダメージは小学生の頃にタナゴのエサとして採ったこの繭を割った時、蛹になる際に脱いだ皮についていた棘が腿にバラ撒かれるように落ち、擦ったせいで数十本が突き刺さり腫れあがるという軽い地獄でした。前蛹の時点で棘は柔らかくなっているのですが、蛹化で脱皮した棘は毒性と攻撃力は乾燥により復活しているので殻を割る際は注意しましょう。
前蛹です。
ぶにょぶにょで精気が感じられませんが、よく見ているとじんわり動いたりするので生きていることがわかります。
前蛹に関しては過去に桜以外のものでバター焼きしか経験がないので桜を食べたものもバター焼きで試してみました。
うまい。
こっくりとした旨味の塊。
ほんのりと桜が香るけど、どうなんだろう。やっぱりバターと桜ってあんまり合わないんじゃないだろうか。イラガ前蛹はバター焼きならべつに桜を食べたものでなくていい気がする。塩炒りのほうがベストかもしれない。
ヤドリバエX
モンクロシャチホコの蛹化を試みていた際にダンボールを開けたらモンクロシャチホコではない蛹が転がっていました。
そうです。ヤドリバエです。
ヤドリバエは宿主が幼虫のうちから体内を食い荒らし、蛹になる段階で食い破って出てきて蛹になります。モンクロシャチホコの場合、蛹になる為に地面に降りてきて安全なところまで到達したところで食い破って蛹になるんでしょうね。なかなか蛹化しないなと様子を見ていたら次々とヤドリバエの蛹が増え続け最終的には寄生率30%を超えていました。つまり・・・ね。
今回は何ヤドリバエなのかまではわかりませんが、桜を食べていて猛烈に桜餅の香りがするモンクロシャチホコを食べて育ったヤドリバエは美味しいのかという番外的なもの。
モンクロシャチホコは比較の為に茹でたもの。
ヤドリバエの蛹は左が茹で、右が乾煎り。
茹でから。
む、思ったよりうまい。
明らかに旨味は濃いめで、皮も薄いので食べ易い。
ただし、クマリン臭はほとんどないので桜の恩恵は感じない。
乾煎りしたほうはどうか。
あ、明らかにこっちのほうがうまい。
炒ったことで皮に香ばしさが追加されていて、噛むとピーナッツの皮を僅かに強くした程度の皮がはじけて、水分が飛んで濃厚になった中身の旨味がガツンとくる。
そしてやっぱり桜の香りは殆どしない。
旨味は十分だけど、クマリンたっぷりの部分を食べて貯め込んでる感じではなさそうなのがわかった。
結果
と、いうことで。
基本的な特徴や調理法との相性はなんとなくわかっていくので、知見が得られたものは次からより料理らしいものに応用もできるかなと。そのままが美味いと結局そのままシンプルになるんだけども。
いずれもまとまった数を採取するというのがモンクロシャチホコと比べると最も難しい点で、そういう意味では大型のモモスズメやわりと大量に発生することのあるイラガが採取による食用としてはわりと優秀になるのかなと。イラガは嫌われ者だけど、味も良いので食べること考えるとわりと良い奴になりますね。
忘れられそうなので改めて言いますが、これは桜を食べて育ったものであって、同じ昆虫でも桜以外を食べていれば風味は別のものになります。
他にも桜を食べる昆虫はたくさんいるので、食べたら随時追加していこうかなと思います。
桜の中にはクマリンを持っている品種と持ってない品種があるので、チェックしておかないと桜餅の香りを楽しめない可能性もあります。
イラガの繭をたくさん集めると、何割かは寄生バチ(セイボウ)が入ってます。この幼虫はとても美味く、個人的にはイラガよりも美味いと思います。おススメです。
いつも楽しく拝見しています。
久しぶりにコメントさせて頂きます、確かアブラゼミの記事以来になります。
この時期の昆虫は同じ種類で数をまとめやすくて良いですね。
少数ずつだとなかなか感想を述べ辛いものがありますが、
せつなさんの記事は比較が上手でその点でも楽しんでいます。
私は虫はまず茹でたい派なので、偶然採れた奴だと茹でた味しか知らなかったりしますし……。
リンゴドクガとか割と食草がはっきりしてる毛虫はチャレンジし甲斐がありますね。
ヒトリガ系の移動しまくるタイプだと何食ってるか分からなくて(味が一貫してなさそうなのと毒草食ってる可能性があるのの両面で)手を出し辛い……。
イラガみたいな明らかに刺して守る系の毒使う奴らは熱で大体どうにかなるイメージなんで、積極的に食べ比べてみたいですねぇ。
初めまして。
昆虫や魚が好きでここを時々見ています。
イラガの幼虫を食べようという発想が今までありませんでした。
ゆでると無力化できるのもここで知りました。
私には到底真似できませんが、知識として覚えておきたいと思いました。
イラガの前蛹が炒ると美味いってのは30年近く前に何かの本で読んだ記憶があります。
他にも通称イタドリムシやザザムシ蜂の子など、何故か釣りの餌になるものは食用にもなってきた不思議がありますね。
更新増えて大歓喜です。
いつも楽しく拝読しております。
桜の木につく虫といえはヨコヅナサシガメが浮かびます、彼等も同じように桜の味がするのでしょうかね。
これからもお体に気をつけて、更新楽しみにしております。
サシガメの仲間って肉食ですよね。
特定の種だけを捕食しているのでなければあまり桜が関係してこない気がします。
やった、更新ラッシュだ。
今年は知人のサツマイモ畑でナカジロシタバが大豊作と聞きましたが、せつなさんは食べたことありますか?
エビガラスズメは食レポがあるのですが、シタバの方は見つからず。
食性が同じ以上似たような味なのかなとは思うのですが。
今度その知人宅にお邪魔する機会があるので、隙を見て食べてみたいと思ってます。
キッチンでこそこそ芋虫を調理するおっさんなんて、奥さんからしたら嫌な来訪者だろうなぁ…
ナカジロシタバってどんなんだっけと思ったら、あぁ、これ昔いっぱい見ましたね。
残念ながらその頃は昆虫食はイナゴしか経験なかったので食べたことありません。
サツマイモの茎は美味しいのできっと美味しいんじゃないでしょうか。未消化物がそのまま美味しいかどうかはやってみないとなんとも言えないので予測できませんが。
エダシャクXはヨモギエダシャクっぽいですね
ヨモギエダシャクはリンゴに付くくらいだから同じバラ科のサクラでもいけるんですかね。
せつなさん、ほんとすごいね
フツウダヨ
>モンクロシャチホコにギンが付いただけだが
ギンってなんですか?
モンクロ「ギン」シャチホコでしょう、あきらかに
せつなさんに刺激されて河原でバッタを採って食べてみました。
・素揚げ…川えびそっくりだけど味がしっかりしている。ぷりぷり感がないのも川えびそっくり。
・炒め物…「虫」感がすごいです。肉なのになんだか「豆」っぽい感じがしました。ちょっと微妙な感じでした。
素揚げはおいしいんですけど油を多く使うのでちょっと困ります。
昆虫料理で使った油は使い回しできないものになるので基本使いたくないんですよ。
それだけで廃棄しても構わないほど大量か、揚げ焼き程度で済ませられる少量か以外は効率が悪いので揚げたくないというのが本音です。
よほど美味いものがあればまた話は別ですが。