ざざむし。

庶民の河豚シロサバフグをもっと評価したい

食の世界においてフグというと高級品というイメージが強いのは専門店でしか食べられないトラフグやマフグなどの一部のフグのせい。
それらの天然フグには誰しも知るようにTTX(テトロドトキシン)という毒を含む部位があり、その致死毒性は青酸カリの850倍とか1000倍などといわれ、加熱しても毒性は失われない為に確実に有毒部位を取り除いて調理するしかない。

ペロッ「これはTTX」
わかるほど舐めたら終わりそう。
日本近海に約50種いるとされるフグは種によって有毒部位やその毒性が異なり、人に提供する前提ではフグ調理師免許がある人しか捌くことが認可されていない。

高級な扱いを受けるフグは大部分が専門店で消費されるのだろうが、免許がある人がさばいたものが一般庶民向けの店で大量に流通する種もあり、そのひとつがサバフグだ。スーパーで安いフグ加工品を見つけたら大部分がサバフグですね。

↑ これは尾鰭の色がわかりにくいけどシロサバフグ。

シロサバフグは完全に無毒(とされていた:後述する)、クロサバフグは肝臓・卵巣・腸に毒をもつものがあるが筋肉・皮・精巣は無毒とされ、いずれも高級な扱いを受ける他のフグ達と違って明確に水っぽく歯応えが弱い。それゆえか安価にスーパーなどで剥き身や干物などが販売されており、我々庶民に馴染みが深い。山口や九州では刺身でもよく売ってるんだそうですね。
こと免許を持たぬ釣人にとっては種を問わず邪魔者であることも多いのだが、さばいてくれるショウサイ船など専門の船となるとサバフグは眼中にないものばかりで、結局のところ今回の記事は主に店頭で買う方など消費者向け・提供者向けの内容になるかと思います。

実のところ、他人に食べさせなければ自己責任でお咎めもないので私なんかは自分でやっちゃうんだけれども、サバフグはほぼ安全なシロサバフグと比較的安全なクロサバフグの他に筋肉まで全身毒性の強いドクサバフグなどの見た目がかなり似ているということもあり、さばく段階での同定をミスれば人生終わる可能性がある為、この記事は決して「皆にもっとサバフグさばいて食え」というものではないということを念押ししておきます。

モリモリ釣れるならば自分でフグ調理師免許をとってしまうか、フグ調理師免許を持った信頼できる人と友達になるとよいでしょう。
何十匹という山の中に1本でもドクサバフグがいて気付かなかったら終わりです。また、最近ゴマフグとショウサイフグの雑種という毒性未知なものが発見されて問題になっていますが、それらに限らず自然界の変化は突然なので自力で行う人は特にリスクを覚悟すべきでしょう。
ということで目的が違うのでさばき方については詳しく書きませんが、慣れると2秒で剥けます。


剥き身のシロサバフグです。
販売しているものを見る限り、白も黒もあまり区別されていないような気がしますがどうなんでしょうか。稀によくわからない高値を目にすることがありますが、基本的には大衆価格だと思います。殆どの場合、既に剥き身状態で売られているので歩留まりが良いのも長所ですね。


唐揚げや鍋などはホクホクで身離れもよく簡単で美味しい。
水っぽいとされる身も加熱することで締まり、高いフグに劣るとはいうものの良い出汁が出る。


一塩した一夜干しも大変美味しい。
小骨が皆無なので食べ易すぎて食べ過ぎてしまう難点もあるけれども。


干物といえば、無毒ゆえに他のフグと差別化しやすいのが皮付きの干物だと思います。
背中から半割りにして内臓を取り除き、あとは普通の干物のように処理していくだけ。


炭で焼いていきます。

ホクホクして美味しい。
そして皮付きフグだからこその見慣れないインパクト。パリパリしているのだけど、腹の部分は膨らむところなので筋肉も皮も特徴があるのかモチモチしつつ内側はジューシーでうまい。ただ残念なのは同定にも重要な棘がしっかり焼けないと舌にチクチク刺さるので、今回のように炭で焼いても腹の前方ばかりは巻き込んでいてどうにも表面が直熱に晒されにくく快適に食べられない。つまりスチーム方式などのグリルでは背中の棘すら快適に食べられない可能性があり、消費者の調理環境を選ぶと思われる。
普通捨てられることの多い頭も頬肉はとても大きく目玉も美味しくて勿体ないので、わかってる顧客を確保できている販売店や居酒屋などで提供すると他との差別化を図れるよいネタになるのではないかと思う。美味しさの上限はそこまででもないのでそんなに高値にできる訳でもなく、一般のスーパーで売ってもクレーム対応がめんどくさそう。


鮮度低下が遅い魚という印象があるが冷凍もしやすいので、安い時や大漁の時に真空パックして凍らせておけばいつでも鍋や唐揚げの対応ができて非常に重宝する。


冷凍保存しても加熱して食べる分にはあまり影響を感じないのはとてもありがたい。
手頃な食材なので量を気にせず楽しめるというのは素晴らしいことだし、単体では若干弱いという出汁でも物量で補うことができるので問題ない。鍋の後の雑炊などもとてもおいしい。

シロサバフグは肝も美味しくて、エゾイソアイナメとハコフグを合わせたような感じの肝でプリッと張りがあり透き通った旨味の塊で、そのまま入れてもうまいし溶いてもうまい。しかし海域により卵巣・肝臓・腸に毒性を有するものが発見されてから規制され食べられなくなってしまった。見た目で判別できず誤れば即ち死みたいなものだから仕方ないのだろうが惜しいこと。(いま提供していたら通報案件です
しかし肝が食べられなくなったと言っても骨付き身だけで十分に美味しいし、味噌汁なら皮を足せれば尚美味しいので肝に関しては無理することはないと思う。ぶっちゃけカワハギの肝は超えられないし。

では、何故に大衆のフグに成り下がっているかというと、フグの中では最も多く漁獲されるからというのもあるが、問題はなによりその肉質。
薄造りで比べてみるとトラフグやマフグどころか、個人的にはクサフグやキタマクラより甘味旨味が下だなぁと思うのだが、最も違うのはその歯応え。サバフグの身は柔らかすぎるんですよね。


右下がシロサバフグですが、厚切りでもいかにもな水っぽさ柔らかさが伝わるかと思います。
これはこれで歯応えのないタイプの生のエビに近い柔らかさで、独特の甘味もあるので好きな人は好きなんでしょうが、個人的にはそのままの刺身では物足りないかなと思います。

そもそも身質が全く違うのに同じ「てっさ」を基準にフグの価値を決めてしまうことがどうかという話で、そこらへんは山口県などフグの産地になると特性を活かした調理法がいろいろあるようです。でも実際のところ関東などには全然伝わってこなくて店頭で見かけるのは鍋物用の剥き身か干物ばかり、そしてたまにあっても形だけの薄造りが「こんなもんか」とサバフグの評価を下げてるんだと思うんですよ。


水分多くて柔らかすぎるきらいがあるので昆布締めにも向いています。
生だとどうしてもクタッとしてしまう身も、昆布締めにすることで身が立つほどに水分が抜ければ歯触りもしっかりして一切れでも味わい深いものになり、元々きめ細かい繊維の歯切れは昆布の旨味とサバフグの甘味が相まって噛むほどに幸せを感じます。

ビートたけしが売れ始めた頃、フグも厚く切って出せと言って出てきたものがゴムみたいで食えなかったというネタがありましたが、サバフグに関しては逆に柔らかさを利用して厚く切って利用するのがポイントだと思います。
普通に刺身にしても甘味を感じてそれはそれで美味しいのですが、オススメしたい一手間を紹介したいと思います。

まずは鮮度の良いサバフグの剥き身を用意します。
買う場合はその日に揚がったと確認できる剥き身を購入しましょう。刺身は普通は刺身になってしまっているでしょうし、刺身用のサバフグのサクなんて見たことがないのでここからやるしかありません。海が近い場所にお住まいならわりと簡単に手に入る方も多いんじゃないでしょうか。

まずは一度これを手際よく水洗いしてからペーパーでしっかり水気を拭き取ります。
自分でさばいたものであれば過程がわかっているから不要な場合もありますが、購入した場合は流れがわからないので真水でビブリオを殺す為です。腹の黒い膜が残っている場合はこの段階で取り除きましょう。

普通の魚のように3枚におろし、身だけにします。
写真はカットウで釣ったものなので鬱血が気になりますがシロサバフグは血も無毒なので問題ないです。そうでなくとも鰭の付け根のいわゆる「うぐいす」の部分は赤身なので目立ちますから、仕上げの美しさを重視するなら避けて捌くのが良いでしょう。骨は出汁にでもしましょう。


パラパラと塩を散らしたキッチンペーパーに並べ、上からも塩を薄く満遍なく散らします。


上からペーパーを密着させ、丸めて空気を抜いてラップにでも包み、チルドルームに保管。
余計な水分が浸透圧でペーパーに滲み出ていきます。


丸1日~2日経った頃が食べ頃です。
余計な水分が抜けてかなり旨味が増して感じると思いますが、それでもまだ柔らかい。
これを・・・


熱湯に入れて5~10秒湯引きします。
冷蔵庫から出したばかりでサクが冷たい状態から行いましょう。


左が10秒、右が5秒です。
好みの問題ですが、あまり長く湯引きしないほうが切り易くて綺麗に仕上がると思います。


厚めに切り、このままポン酢や山葵醤油、または塩かぼす等で食べても美味しいんですが・・・


鶏刺風に食べるとかなり違って感じるのではないかと思うので強くオススメしたい。
厚さは6~8mmくらいの厚めがいいでしょうか。
見た目も鶏のササミっぽさがあるけど、食べた感じも薬味によっては「!???」となることでしょう。


ワサビだとまだ比較的魚っぽさを強く感じ、見た目ほど鶏わさに近くはない。
ただ、食感は結構近い柔らかさ。


生姜だとだんだん何食べてるかよくわからなくなってくる。


いちばんオススメなのはニンニク。
おろしたてのニンニクと小ネギをたっぷり乗せて醤油で食べると、こんなに強い薬味なのにブワッと来る魚の甘味旨味に驚く。
そして鶏に近く繊維感を感じない柔らかな歯応え。旨味こそ鶏とは少し違うが、知らない人ならフグ食べてるとは感じないでしょう。寝かす時間や塩の加減で締まり具合が変わるので、自分の好みの加減を探すといいかと思います。

鶏わさは美味しいんですが鮮度全く関係なく外見で判断できないカンピロバクターの問題があり、少量でも摂取してしまうと体内で増殖して食中毒となる可能性がある為、生牡蠣のように食べることができない職種の方もいらっしゃるのではないでしょうか。流通する鶏肉の4~6割にはカンピロバクターが付着しているとされ、60℃1分で死滅するが湯引き程度では必ずしも根絶できないというのは厄介で、残存しない工程で精肉されたものでなければ安全とはいえない。
しかしシロサバフグであれば、鶏わさにわりと近い味わいながら二次感染源となることもないので安心して食べられると思いますし、なにより身の柔らかさを逆手にとっているのでトラフグやマフグショウサイフグなどには真似ができません。
ひとつひとつは負ける要素であっても合わせ技でオンリーワンな立ち位置にいるのがシロサバフグなんじゃないかなと思う訳です。

マグロやウナギやサンマが減少しているように、限られた資源の中で漁業者や販売側は更に考えていかなければならない転機に来ているのだろうなと思うことは多々あり、サバフグなんかも一手間が結果を生むのであればもっと高く売れる方法を模索してもいいんじゃないかなぁと。
とりあえず今は安価で嬉しい庶民のフグなので、安く美味しくいただこうじゃないですか。

URL :
TRACKBACK URL :

Comments & Trackbacks

  • コメント ( 9 )
  • トラックバック ( 0 )
  1. 駄目だなこりゃ
    つまんねえ
    マジでつまんねえ

  2. なんという創意工夫!
    いつも勉強になります。

  3. 開きの炭火焼き、旨そうですねえ。目玉まで食べられるとは知りませんでした。
    釣れると、いつも2、3日置くのが待ちきれず、料理用バーナーでたたきにして食べてます。
    釣れる時にはイヤというほど釣れるのに、狙っていくと全く釣れなかったりで不思議です。

  4. 湯引きはなんだか蛙に近そうなオーラお感じますね

  5. はじめまして。
    ウェブサイトの頃から楽しく読ませて頂いておりりました(昔、掲示板にカキコさせて頂いた事があるかも……?)。
    先日、このブログにたどり着き、懐かしさと喜びと共に、また読ませて頂いています。

    で、今日まさにこの鶏刺し風シロサバフグを食ったので、思わずコメントしました。
    サクを湯引きして厚めに切ってポン酢にネギに紅葉おろしに……。ワサビもうまそうだなあ。
    こっちじゃカナトフグとも呼ばれてますが、安く手に入りうまいので、唐揚げ、味噌汁なんかに重宝してます。
    流石に釣ったのを判別して捌く勇気はありませんが(笑

    それでは、また楽しく読ませて頂きます。

  6. 実家では味噌汁専用魚だったな・・・

  7. 昔親父が沢山釣って来たサバフグの肝だけを、おふくろが甘辛く炊いてくれたのが子供の時大好きでした。今はもう食べれないですが、大人になった今あれで焼酎飲みたいなぁ…と懐かしくなりました。

  8. 鶏刺おいしいですよね。
    怖いけど超おいしいですよね(^^;。
    でもこのクサフグもうまそうだなぁ。
    スーパーで売ってる干物も好きなんですよ。

    ちなみに、うちの売り場の上司はフグの免許を
    持っているそうなのですが、普段の様子を見ていると
    とっても怖いのでもし釣れても頼めません(笑)。

コメントしたければしてもいいのよ?(カエストハイッテナイ)

*
*
* (公開されません)

CAPTCHA


よく読まれている記事らしい

Return Top
ツールバーへスキップ