深海には夥しい数が生息しているにも関わらず、一般人には無縁で知名度が低い生物がたくさんいる。
魚類でいえば未利用魚と言われるものになるが、そんな中のひとつがキュウリエソ。
体の下面に発光器が並んでおり、下面を光らせることで水面の明るさに紛れて外敵から身を守るなどの説があるが、夜間に上昇して普段は深海にいる魚にその理由ってなんかしっくりこないのだがどうなんだろう。
未利用魚となるには理由がいくつかある。
▲ 小さすぎる
▲ 数がまとまらない
▲ 漁の上で手間がかかりすぎる
▲ どうしようもなく不味い
▲ 美味さ(調理法)が認知されていない
などなど
キュウリエソに至ってはとても小さく、4~5㎝しかない。
しかし富山湾で実は最も資源量が多いかもしれないとも言われているらしい。それだけ沢山いるということは様々な魚の餌になっている可能性があるのだが、脆弱な体は底引きに混ざれば圧迫されて粉砕されるだろうし、網目が荒ければ漏れ落ちるだろう。富山湾で網に入るのは元々小型の魚介類であるホタルイカを水揚げする為だ。
これがまた時にはとんでもない数が混ざるらしいが、ホタルイカがメインの漁において他の魚種は邪魔者でしかない。ましてや食卓で得体のしれない細かな未利用魚なんて全部捨てられている。
今回頂いたキュウリエソは鮮度よく、グアニム色素ーッ!!! って色をしている。
エソと名はついているが顔や口はちょっとニシンっぽい作りで体はフニャフニャ。いかにも弱者という印象。
今朝のホタルイカ漁に混ざった鮮度の良いものをわざわざ取り分けて頂き1㎏くらい頂いた。港で数匹落ちているのを見かけたことがあるくらいだったので衝撃の数。いままで1匹2匹では「あぁ、なんとなくキュウリっぽいかな」程度の印象だったが、袋の中を香ると紛れもなくキュウリだ。本当に過剰なまでにキュウリのニオイがする。北海道のキュウリウオもそうなんだけど何故キュウリ臭になる必要があるのか。
しかし残念、予定があって今すぐ調理できない。
で、
山菜狩りしている間に車内のクーラーで持ち歩き1日近く経ってしまったのが残念というか不安が残る。
死んだ魚みたいな目しやがって。
やっぱり内蔵が柔らかくなっちゃってるなぁ。
うまかろうが不味かろうがとりあえず唐揚げは試さないとね。
丸ごと片栗粉だけまぶして揚げてみる。
サクサク
うん
サクサク感はとても良く、不味い要素はどこにもないけど秀でたところも特になし。
むしろ、画像ではわかりにくいが油に投入すると一瞬で真っ黒になり常に失敗作のような見た目になってしまうので、味覚が見た目に左右される人にとってはマイナスポイントかもしれない。
あのボウズコンニャクさんですら唐揚げしか食べてないのはやっぱり市場流通上では数匹混入する程度だからなんだろう。
せっかく沢山あるので生でも食べておかないといけない。
本当は丸ごといきたいところだが、鮮度に不安が生じてしまっているので今回は出先ということもあり被害者を増やす訳にはいかないので頭と内蔵を取り去ります。
すると半分がゴミになることがわかる。
キュウリ臭に混ざる生臭さの元となるヌメリをとる為にたっぷりの塩で軽く揉み、洗い流してキッチンペーパーで水分を取ります。強く揉むと崩壊するので軽く軽く。
簡単に2品試してみました。
下拵えしたものをそのまま葉ワサビと和えただけのもの。
塩味は効いているのですが葉ワサビの香りを蹴散らすほどのキュウリ臭。
べつに悪臭な訳ではないのになんなんだろうかこの違和感。
そして驚くことに甘味が凄い。完全に脂の甘味。旨味もある。よく見ると物凄い脂肪なのが写真からもわかると思う。
富山湾のフィッシュイーターってホタルイカとシロエビとキュウリエソをかなり食ってるんでしょ?美味くならない訳ないじゃないかって言いたくなる。そりゃ氷見ブリもアカムツも脂乗るわさ。
ただ、塩で揉んだだけでは流しきれなかった生臭さが邪魔をしてかキュウリ臭が爽やかには感じられない。これ、朝イチで調理していたら違う結果だったのか、それとも根本的に無理な話だったのか謎が残る。
むしろ野菜のキュウリと和えれば面白いんじゃないかという話も出たので、今度新鮮なものが手に入ることがあったら試してみたいところ。
こちらは下拵えしたものを三杯酢で短時間和えただけ。
脂は物凄いけど小さく薄い体なのであっという間に酢の効果が出る。
表面のキュウリ臭はアッサリと消失し、旨味だけが残った。これら生のキュウリエソの旨味は、相模湾東京湾あたりの6~7月ピーク時の居付き小型の黄金アジとか、島根県で体脂肪率10~15%以上に指定してブランド化されたどんちっちアジに匹敵するかもしれない旨味の強さと質を感じる。
おそらく体脂肪率が高すぎて、揚げた際に殆ど流出してしまうから旨味も抜けてあんなサクサクになってしまうんだろう。
しかし、いかんせん小さすぎて普通こんな小さな相手にここまで手間かけるにはそれなりの付加価値がついてからでないと捨てられても仕方ないかなと思う。
そういう意味でも、やはり丸ごと食べられるかどうかは重要なところで、次回があるなら鮮度の良いうちに丸ごと塩で洗って酢に漬けてみたい。内蔵ごととなると未知の寄生虫のことも考えなければならないので、酢で洗って小分け冷凍でどうにかならないものか。
しかし仮に美味いことが浸透したとしても、生シラスのように脚光を浴びた途端に乱獲され、生態系ピラミッドの下辺が崩れて上層の品質が下がるようなことがあっても意味がないのでそういう未来が来ないことを祈るのみ。
~ そして2週間後 ~
鮮度が不安だったことと、出先であったことに加え、深海魚で未利用魚なので脂の正体が不明ということがあり、残ったものを塩漬けしていました。
脂の正体というのは、深海性のコペポーダには休眠期に体内の60~70%がワックスエステルになるものがいるそうで、ハダカイワシなどはそれを食べて蓄積し、更にハダカイワシを食べるバラムツやアブラソコムツに溜まっているので、要するにあんなことになってはいけないから控えましたということです。貯め込む体質かどうかは魚種によって異なり、ヨコエソも貯め込むらしいがキュウリエソ科は不明。
とはいえ、確実にワックスエステルを貯め込んでいるハダカイワシでも常識レベルの量を食べている分にはアブラソコムツであんなことになる自分でも全く平気というのが経験上わかっているので、あの程度なら全く問題ないのは予測の範疇。
さて、あんなに生キュウリエソが美味しいなんて全く想像も期待もしていなかっただけに、できれば生でいろいろ試したかったという無念を形にしたかのように鎮座する大量の真っ黒な塩漬け。
こいつ・・・どうしたもんか。
多分、あれだけ美味いんだから魚醤作ったらきっと美味いものができるはずなんだけど、これだけの量ではおそらくちょびっとしかできないし、待ってたら最低でも来年になってしまう。
少し取り出してみると、案外しっかりした形を保っている。
それより驚いたのは
このすんごい脂。
まるでワセリンを塗りたくったかのようにブ厚く感じる脂。
キュウリ臭もかなり和らいだようだ。
ちょっと水で洗ってそのまま食べてみる。
旨味つよっ!
たった2週間漬けただけなのにアンチョビめいた旨味。アジっぽさもある。内蔵も頭も全く気にならない。
しかしさすがに塩辛すぎて日本酒や泡盛のアテにする以外だと何かに合わせて緩和しないと数は食べられない。
豆腐に乗せてみた。
いわゆるスクガラスをつかったスク豆腐みたいなイメージで。
うん、悪くない。ポン酢との相性もいい。
スクガラスはアミアイゴの幼魚の塩漬けなんだけど、キュウリエソはあれよりしっとりしていて骨も柔らかい。旨味の強さも塩気の強さも豆腐が受け止めてくれている。
以前に作ったボラガラスとは雲泥の差だ。
キュウリエソは美味い。
でもやっぱり「らしさ」を全力で発揮できるのは生かもしれない。生はいいぞ!
イカの沖漬けみたいに沖で甘酢に漬けてきたら当日は美味いんじゃないのかなぁと妄想が膨らむ。
とりあえず、残りはオリーブ油にでも漬けてアンチョビ風に使ってみようかと思います。
もう不味くなる要素が見えないのでその辺はUPするかどうかわかりませんが、新な生食の機会でもあればその時にでも上げるかもしれません。
こいつ、大きかったら間違いなく脚光を浴びられる魚でしたね。
果たして一般消費者の口に入る時代は来るのかどうか。来ないだろうなぁ。
学生時代このへんの分野が専門でした。
中層(200-1000m)に棲息する生物では、身体の下側に並ぶ発光器(腹側発光器)は非常にポピュラーです。
キュウリエソを含むワニトカゲギス目、ハダカイワシ目魚類はほぼすべて持っていますし、中層性のイカ類や甲殻類にもよく見られます。
中層までは日光もある程度届くし、夜間でも月が出ていれば浅いところなら十分明るいので魚影を隠すことは非常に重要です。いくつかの魚種では上から照射された光と発光器から発する光が同期することが実験で確認されています。
逆に捕食者側では、この「カウンターイルミネーション」を見破るための適応が見られますね。https://www.youtube.com/watch?v=r4lj2bHx-yA
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あとこの手の魚はマイワシなどのようにパッチ状に分布するわけではなく、棲息深度を狙って適当に網をひけば文字通りどこでも捕獲できます。問題になるほど乱獲するのはまず無理だろうと思います。
ただ狙ってうまいこと大量に捕獲できるかどうかは疑問です。
静岡県の港町などで売っているハダカイワシ(種名)は、相模湾で群れているところを狙って採っているらしいですが、外洋にいる多くの中層性の種は大きな群れは形成しないと考えられます。
なるほどなるほど。
ありがとうございます。
塩辛と同じく、蒸かしたジャガイモに合いそうですね。
地元の知恵ですが。
ジャガイモに乗せると味としてはシュールストレミングから臭さだけ取り除いた感じになりそうですが、多分もっと美味いですね。
更新楽しみにしております。
コメント欄に冷や汁との文字がございましたので、一筆啓上。
私の故郷、宮崎では「ひぼかす」といいますが、囲炉裏端やストーブの遠火で乾燥させた魚(海水魚なら白身全般かアジ、淡水魚ならハゼなど)と炒胡麻を擂鉢であたり、細かくなってから豆腐を加え、さらに混ぜ、好みの味噌を加えてから少しずつ出し汁(水でも可)を加え、結構強めのドロドロくらいになったものに塩揉みの胡瓜を加え、氷を入れてから好みの薬味をしこたまぶち込んで飯にかけて掻っこみます。夏の味です。なんだか里帰りしたくなりました。
焼き乾してからってのはやったことないですが、旨味変質して濃厚になってそうで絶対うまいでしょうね。
キュウリエソの場合は脂多すぎるから酸化臭が怖いので炙った程度か生使用しか考えてないです。
この魚、脂で船のデッキがぬるっぬるするからワックスなんじゃねぇのと思って食べるに至らなかったんですけど、こんど揚がったらその場で生食してみます。
キュウリと別の生臭さが少しあるので酢か醤油があるとよさそうです
匂いがキュウリっぽい、って事はカニミソやウニと一緒に軍艦巻きにしたら美味いんですかね?
どっちも脂モノだし脂が強くなり過ぎるかな?
キュウリ臭自体は悪さしてると思わないんですが同居する生臭さをどう消すかですね。
醤油で消す、ウニのような潮の香で誤魔化す、酢で反応させて消す、いろんなパターンが考えられるけどいちばん気になるのは新鮮な状態で内蔵も生臭くなく食べられるかどうかですね。
豆腐と合わせたらなにか強烈に生臭かった魚介があったんですけど、
臭みがほどほどだったらこれは結構美味そうですね。
ちなみに茹でたウインナーをかじって豆腐をほおばるのが大好きです。
>生はいいぞ!
コワイから僕は着ける派です(キリッ)。
あらやだへっち
天ぷらにしたら良い感じになるのでは??
指先サイズくらいだからかき揚げですかね。単体だと衣に負けそう。
豆腐と並んだ事で初めて縮尺が腑に落ちました。この小ささは色々確かに…って感じですね。
しかし…それを上回る圧倒的うまそう感…。
2週間でアンチョビが出来るならそれはそれで個人的にはとても摂取してみたい食材…!
機会が…そう、いつか機会があれば(´∀`)
塩で揉んでるところで指との比較がわかると思います。
処理にコツは必要だと思いますが、間違わなければ確実に美味い部類の魚ですね。
未利用資源の活用いいですね。
キュウリエソは干したら、煮干みたいになりそうですね。
味噌汁にもあうのかな、キュウリエソで冷や汁できるのかななんて思いました。
脂が多すぎてそのまま干したら酸化が早そうだし、煮干しにしたら脂抜けてスカスカになりそうな。
冷や汁はかなり美味そうですね。これは合いそうだから絶対やってみたいです。
なるほど、深海魚のワックス成分の源はコペだったんですね、勉強になりました。
私も今年知ったばかりなんですよ。
休眠期にワックス作るやつとトリグリセリド作るやつがいて、ワックスのほうも2種に分かれるそうで。
何時も楽しく読ませて貰っています!
深海で漁をしている時とれる魚の腹から良くこいつが出て来ます!鰯しかり魚が好んで食べる魚は人が食べても美味いだろうと思いつつ大きさと数の問題で食べた事ありませんでした。
宮城に行った時にハダカイワシって名前で売ってるの見た気がするのですが同じ魚でしょうか?
ハダカイワシの仲間は高知県をメインに各地で細々と売られていることもありますが、販売されているサイズがまるで違うのでハダカイワシはハダカイワシなんじゃないですかね。
見てないのでなんともいえないのですが銀色でなかったのならキュウリエソではなくハダカイワシの仲間だと思います。
以前マムシグサの時にコメントさせてもらったものです。
ボラってあの出世魚のボラですか?
お味はどうでした?
もしそこそこの味でしたら網ですくってやってみようかな
普通の静岡にいたボラです。
綺麗な場所だったにも関わらず揚げても佃煮にしても泥臭く苦味があり神奈川の河口周りのと変わらず。
半年近く塩漬けにした結果、臭味が消えて似たような旨味が感じられるようになったものの、どことなくケミカルな後味に単体で食うもんじゃないなという印象です。