ざざむし。





なかなかカッコよいウミビルがいたのだが

いきものに触れていると寄生虫と出会うことは日常茶飯事で。
問題になるものはヒトに直接の実害が発生するものなのかどうか、またはヒトが利用するものに限度を超えるほど実害を発生させるものなのかどうか。それらが問題なければだいたいどうでもよい。美味しい機会を逃さない意味でも、精神衛生面でも、そのへんの判断は大切だと思います。


カレイの仲間もなんやかんやと寄生虫が多くついていることがあり、このソウハチガレイなんかは外見は問題なかったけど胃袋の組織の中に夥しい数の白い寄生虫が潜っていました。まぁ、自然界に生きる生物なんて多かれ少なかれ寄生されているものなので驚くことではないです。

アニサキスを筆頭に生食するがゆえ食用時に問題となるようなヒトへの実害が発生するものがあるために、一方的に寄生虫という言葉だけで嫌悪感の対象になってしまう傾向を感じます。
または寄生虫の「虫」という言葉が余計な嫌悪感を誘うのかもしれない。昆虫を限定して指す言葉ではないので、そこに生まれているのは「何をしてくるかわからない」という警戒心か、「虫けら」という蔑んだイメージのような気がしています。

一言に寄生虫と言っても、寄生生活をする小さな生物の総称みたいなものなので分類も広く様々で、どうしてそんな特殊な生活環を手に入れたのか不思議に思える生物も多くいます。そういうのがわかってくると次第に嫌悪の壁が崩れて興味に移行しはじめる方も出てくるかと思います。こんなところを読みに来る人はだいたいそっち側の人だと思うので、そういうことにします。


さて、今回はソウハチガレイに付いていたウオビルの仲間です。
なかなかよい柄でキモカッコイイ。
っていうかこれ、素人目にはどう見てもカニビルに見えるんですが?
深海性のヒルなんて全くわからないのでちょっと調べてみたら、皆さんご存じカニビルの卵が付いたものは身詰まりのよいカニの代名詞みたいなものだけど、あれは実はズワイガニに卵を産み付けるだけで本来の宿主は魚類なんだとか。産卵場としては硬いものなら岩でも貝殻でもなんでもよいらしい。なるほど、富山湾のように海底に硬い障害物の少ない場所ではズワイガニの甲羅がカニビルの産卵場として選ばれる訳だ。(ちなみにカニが脱皮から数日の間にタイミング悪くカニビルが産卵して直後に漁獲されてしまえば身詰まりの少ない水蟹ができあがるので、カニビルの卵がついているからといって100%身詰まりがよいという訳ではない。とはいえ、脱皮後のソフトシェル状態ではあまりエサも食えないので構造上カニカゴにも入りにくいはずだから、あくまでも見た目で身詰まりのよい可能性を上げる方法ということになる。)


柔らかいのに触るとピンと硬くなり、かといって淡水のヒル達のように縮むでもなくシャミセンガイっぽいというか、淡水でよく見るヒル達よりも美味しそうな予感がしてきます。

寄生虫は宿主についているので、その個体の大部分はその宿主でできていると考えることができ、その宿主がヒトにとって美味しい食用生物である場合には味の面での謎の安心感があります。
宿主ごと食べられて生活環が成立するタイプの寄生虫は毒性も考えなくてよい場合が殆どじゃないかとも思っているのだけど、カニビルの場合はその点に関してはそうではないので若干警戒する部類。しかしカニは卵ごと茹でられるのが当たり前、たまに成体も共に茹でられているのに事故がないということは食べても多分殆ど問題ないであろうということは言える。

寄生虫とはいえ安全であれば、イタリアのマカロニ・ディ・マーレのように食用にされるウグイの寄生虫のような存在にもなりうる。その可能性は頭の片隅に置いておきたい。(あれはあれで日本にもいるらしいのでウグイをさばく際には注意しているんだけどなかなか出会えないでいる。食感はなんとなく回虫系なんだろうなと想像はするけど生きているのが腹から現れる瞬間に出会ってこそだと思うのでこれからも注意していたい。)


寄生虫への偏見をなくすために日本で入手しやすく美味しい寄生虫なら、アカムツノエやタイノエの大きな雌がオススメしやすい。
食用でも有名になったオオグソクムシとちょっぴり外見は似ているけど、スカベンジャーであるオオグソクムシと違って宿主から栄養を吸収し続けるだけのタイノエは消化管内に腐れたエサが詰まっていることがなく、ほぼ宿主の肉体の一部でできていると言える。おまけに大きめのアカムツノエなどならば1個でも満足感が得られるほどの旨味が凝縮されており、更に言えばメスの内子がしっかり成長した状態のものがよりうまい。

寄生虫と侮るなかれ。
軽く揚げるだけで完成された逸品となり、もう美味しくしか見えなくなる。

話が脱線したが、今回はソウハチガレイについてきたカニビル(仮)である。
宿主がソウハチガレイだったのでオマエはソウハチガレイでできている。安全性もおそらく大丈夫。問題は味と食感だ。


茹でました。
塩ひとつまみ入れた湯で1分。

茹でる前の写真を撮り忘れたけど、1~2割縮んだだけで見た目が殆ど変わってない。

サイズ感はこのくらい。
伸ばして10㎝くらいか。


ただ、生きている時には気付かなかったところに何か飛び出ている。
ミズウオの消化管にいた寄生虫もこんな感じのところに穴があったし、プラナリアの仲間も中腹に口がある。こういう構造のものは案外いるのかもしれないが、ヒルの仲間に関してこの部位は生殖器のようです。


生きている時に見てもサッパリわかりませんでしたが、死んでも茹でてもやっぱり口はどうなっているのかサッパリわかりませんでした。あんまり時間かけると食欲が落ちてくることがあるのですみやかに食べるとします。


モッチモチでギョリギョリやぞ。
なんだこれ。歯切れがすごい。
べつに不快感はないが、なんだかどことなく食べたことがある風味がする。


中身を押し出して皮と中身を別々に食べてみるとわかりやすい。
なるほど、イカチチの極薄貝紐詰めみたいな感じか。
中身は凝固したタンパク感があり、イカチチやしっかり固まる芋虫系幼虫の肉にも似た感じがある。味は薄い貝紐系。
風味の大部分は皮のせいかもしれない。ジャキジャキといった歯切れは生のホタテの貝紐を極薄にしたらこんな感じだろうかという。たまに何かいらん風味のする貝紐おつまみや中華クラゲがあるけど、皮の風味はあれを薄くしたような感じがする。
今回は塩ひとつまみ入れて茹でたので塩味も影響しているはずだが、それでこの程度の味では旨味としては価値無しの部類と言わざるを得ない。
ただ、逆を言えば邪魔になるほどの風味はないし、食感はジャキジャキプリプリモチモチとかなりはっきりしているので、数が得られる場合においては食感のアクセントとして料理に混ぜて使用するのはアリかもしれない。


私の中でカニビルの見え方が少し変わった。
そもそも本当にカニビルでよいのだろうか。

と、なんとも応用が効くのかどうかわからない感じで今回も闇に消えるはずだったのですが。
有名なカニビルなんだけど意外すぎる文章が目に入ってしまったんですよね。

日本産ウオビル科およびエラビル科ヒル類の目録(1895-2008)には
「わが国では魚類宿主は見つかっていない」とある。

えぇーっ!?
こんな有名な生物でもそんなことあるのか。いや、そんなこといっぽあいあるんだよね。

まず、本当にこいつがカニビルなのかが問題にはなるのだけど、今回のカレイ1枚だけでなく付いていた宿主は数枚いたんですよ。大きな個体がこれ1匹だけだっただけで、もっと小型のものは10匹くらい見ました。おそらく今なら狙い撃ちで寄生したまま捕獲可能です。
どなたか専門の学者さんなどご要望あれば調達しますよ。(ここにコメントしても気付かないのでTwitterから連絡ください)
っていうか、こんなの釣人や漁師は散々目にしているけど当たり前すぎて気にせず捨てていただけのよくあるパターンじゃないのかなぁ。
カニビルがズワイガニに産卵すれば、餌となる魚介の死骸にカニが集まった際に同様に集まってくる魚類へのカニビルの移行も容易だと想像できる。ソウハチガレイがいる水深はズワイガニの生活圏ともかぶるので十分に可能性はあると思いますが、カニビルなのか、カニビルだとしても何種かいるのでどれなのかもよくわかりません。よくわかっていない点と点の間が想像できると楽しくなってきますね。
どなたか詳しい方がいらっしゃいましたら教えていただけると嬉しいです。
実はもう魚類宿主なんて当たり前に見つかってるんじゃない?

食感がよさそうだから持ち帰ってみただけなのに、思わぬ方向に転がってよかった。
何事も無関心は勿体ないなと再確認。

参考文献
日本産ウオビル科およびエラビル科ヒル類の目録(1895-2008)

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Comments & Trackbacks

  • コメント ( 3 )
  • トラックバック ( 0 )
  1. 茹でた見た目はKGBの色違い感がほんのりあるけど食べた感じは違う感じっぽいんですね

  2. あの淵が青いの皿って~ビル専用なんですかね?

    それはそうと旨そうなカレイの写真をドンと見せておいてカレイは食べず出てきた寄生虫だけ食べるというスタイル 。

  3. 初めてコメントします。
    ソウハチにこんな寄生虫つくんですね。
    ソウハチ釣りは好きだけど、こんなの見たことないです。
    色は全然違うけど、サンマについてるヒジキムシに似てますね

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