ざざむし。





夏といえばあぶらぎっちょ

何ぞ???
富山に来て初めて聞いた言葉。
実は何のことはない、今までも採ったことのある生物だったのだけれど、その採り方も面白ければ数もおかしいというのだからやらない訳にはいかない。春先にちょっと試してみたものの気配なく、やはり季節が問題なのかと7/3に至る。


場所は富山県東部の何の変哲もない浜。
あぶらぎっちょより翡翠が落ちている海岸として有名。
連日の大雨で濁ってるんじゃないかという心配はあったが、とりあえず試しということでやってきた。


こんな感じの大粒の礫~手で動かせる程度の小型のゴロタの浜で遊ぶのでベタ凪の日が好ましい。
笹濁りな上、残念ながら若干ザブついてるが仕方ない。


まずはイカの切れっ端を握る。
イカはゲソでも耳でも皮でもどこでもいい。

そして浜にグリグリと拳を突っ込むと採れるというのだが、ほんとにこんなんで採れるんかいな・・・どこでもいいって訳でもなさそうだが、歩きながらガスガス拳を突っ込んでいく。

お?

おおおおおおお?
いるいるいるいるいる!
とれたwww

ピラニアのように瞬時にエサの臭いに集結し、カンディルのように指の隙間から入り込んでイカに噛みついてくる。素直にすんなり入ってくれるものばかりなら楽だが、頭だけ突っ込んで引っ張り出して食べるやつもいてグリグリ動く触感から動きを想像する駆け引きが面白い。
イカの良いところは簡単に噛みちぎられないところだと考えられる。


これがあぶらぎっちょだ。
これは最大級なのでちょっと厳つい顔してるけど、小さいのはもうちょっと可愛らしい。

ただのミミズハゼじゃん!
と思ったけど、どこか違和感。

よく見たらどの個体も胸鰭に遊離軟条があるからオオミミズハゼのようだ。

しかしなんだこのイージーな漁はw
ミミズハゼ自体は簡単に採れる魚だからいままでも採ったことあったけど、こんなイージーな遊び方があるなんて知らなかった。

海底湧水の絡む礫底の海岸に集中するということで、富山県でも東部の海岸のみで受け継がれる夏の遊び。
ミミズハゼを朝日町では「ベント」と呼び、入善町では「あぶらぎっちょ」と呼ばれ親しまれてきたらしいが語源は全くわかっていない。「ベント」で検索してもイベントとベントスばかりで埋め尽くされるし、あぶらぎっちょで検索しても9割「あぶらぎっしゅ」が引っかかってくる始末なんだから、この遊びかミミズハゼ自体を元々知ってないと調べもしないし広まりようがないことが想像できる。
語源がわからない時点で問答無用であぶらぎっちょ派に入信である。
いや、抗えないでしょ。なんであぶらぎっちょなんだよwww
守りたい この響き。
この日が若干荒れ気味で波打ち際が安定しないせいなのか理由は定かではないが、どうも波打ち際は数もサイズもイマイチな感じがあり、気付けば次第に深場へズルズルと。
石が大粒になるにつれ同じことやってて大きなギンポがイカを食べに手に入ってきたりもしてなかなかアツイ。途中、手からイカを延々と奪っていくギンポにムキになって時間を浪費。
あと、ここでは詳しく書かないけど意外なものも採れて面白い。
おまわりさんコイツらです!
なんか海岸にTENGA埋めてる人もいます!
え?良い子はTENGAのことはパパに聞いてね!

夏休みの風物詩的な遊びらしく、お盆にもなれば地元の子供達がこの遊びで賑わうらしいがこの日はまだ7/3。
ルアーマンか翡翠を拾ってるお嬢さん(?)方しかいない中、 むさいオッサン達が波で背中めくられながら何やってんだコレ。
海パン持ってこなかったからパンツまで濡れてるし。どうもオオミミズハゼにも快適な場所が明確にあるみたいで、場所が当たると手を突っ込んでる最中に指の隙間に潜ろうとしてくるくらい活性が高いし沢山いる。エサに集る時のこいつらのテンションすごい。
一度に3~4匹が手に潜ろうとしてくるのはザラにあるが、全部を一度に捕らえるのはなかなか難しくてアツイ。


コツがわかってきたらあっという間にまとまった数になり、テストとしては十分でしょう。

これ、地元では丸飲みすると泳ぎがうまくなるという言い伝えがあるらしい。
そんな訳ねーじゃんw
絶対イタズラっ子か誰かが言い出したのがそのまま伝わっただけだと思うけど、今でも平然と行われているらしくニュース番組でも飲んでた。
基本的に自然界の生物は生きたまま摂取するのは寄生虫リスクがあるので避けたほうがいいのだが、昔から行われている地域で問題が起こっていない場合はそこに問題となる寄生虫のサイクルが存在していない可能性が考えられる。
はい。
ちゅるん・・・・ごくん。



無味。
噛んでないから当たり前っちゃ当たり前だけど、ヌメリにも特に嫌な生臭みがある訳でもなく、気持ちだけの問題ですね。
胃の中で茹でたドジョウみたいな白い何かになっていくんだろうと思うとなんともアレな感じですが、まぁうんこになれば同じです。ドジョウっぽい見た目だけどハゼの仲間ですし、美味しく食べられるはず。
試しにいくつか料理してみましょう。
とりあえず元気なまま片栗粉をつけてシンプルに揚げてみます。これは・・・完全に予想外。
見た目こそドジョウっぽいけど、揚げたてでも身に全くサクサク感がない。薄い衣がサクッときて直後から身がホロッと口に消える。口溶けが良い身はむしろ同じハゼ科のシロウオを思わせ、大きい分だけ背骨が少し硬く残る。硬いといってもヌマチチブほど困る硬さではないので、これはこういうものとして慣れてしまえば十分に美味しいものといえる。心配していた頭もさほど硬くはない。
そして腹ワタがどこかアユっぽい。食べて美味しい内蔵の風味で、何か一工夫するとつまみとして完成しそう。


シロウオっぽい身質ならば吸い物はいけるんじゃないか。
トロロ昆布と合わせたらタガメに体液吸われ捨てられてアオミドロに絡まったドジョウみたいな見た目になったが。

うん。やっぱり身自体はシロウオっぽい。臭味もないし肝もアクセントとしてアリ。
ただ、でかい。
私はこの程度の骨は気にしないけど、やっぱり万人受けはしないだろうなぁ。


ちまちま1匹ずつ焼くのも面倒なのでフライパンで焼いてみるも、油なしだとテフロンでも綺麗に焼くのは難しい感じ。
見た目は綺麗にならないが、そのまま塩焼きで十分に美味しい。

活かしている間に気付いたことがあるのだが、確かめるにはミミズハゼが足りない。
採りにいきましょう。

しかしなかなか天候やスケジュールの都合が合わずズルズル時は流れ、これ以上凪を待っていたら夏休みの子供達向けに記事が間に合わない。
夕方に強行して行ってみることに。

前回より酷いじゃーん!
釣りする立場から見るとなんてことないんだけど、小さな子供でも安全にあぶらぎっちょ楽しもうと思うとこれでもキツイんですよ。だって自分でも多分キツイはずだから。浅い波打ち際で水面寄りに定位するって何気に普段やらないことなので甘く見がち。
ボ ボ ボ ボ ボ ボ ボ ボ ボ ボ ボ ボ ボ

無理っ!

今日は海パン装備だから余裕かと思ったが波足が長くて何度も浮かされ転がされ、拳が全く安定しないので話にならない。
アハハハハハハハハハ
だんだん変なテンションになってくる。

もう夕方だからというのもあるのだろうけど、なによりこの波がよくないんでしょう。2~3人やってる人を見たけどすぐに諦めてた。しかし私はもう引き伸ばしたくないので意地でも採って帰らないといけない。
浜を行ったり来たりして採れそうなところを探すも、波が穏やかなところは砂が細かくて魚がいない。
1時間ほど歩いた頃、波はキツいが比較的採り易いところを発見。


あ ぶ ら ぎ っ て ま い り ま し た !


指の隙間からグリグリと入ってきて、イカに噛みついて手の中でデスロールする。
ハゼ科でこんな動きをするイメージが全くなかったので意外性もあって本当に面白い。
この遊びを知るまでは石の下にいる地味な魚程度の認識だったが、完全にイメージが渚のカンディルになった。


たーのしー!


波足長すぎて近くにバケツ置けないから途中で落とすわ、下向いてるから時々波で吹っ飛ばされて転げまわるわで効率悪かったけど、採りやすいポイントに入ってから1時間少々で50匹超えた。カメラさえ置けば二刀流ですしね。
いやー、マジで童心に返る。一人でなにやってんだろ。

さてさて、無事?追加できたので前回生まれた疑問を解消していこうと思います。
その前に

フライパンで焼いた時のものはいくらか焼き乾してありまして、これを更に電子レンジで20秒。
香ばしくパチパチいいだしたところでお猪口に入れて、好みの日本酒を注ぎ再び電子レンジへ。

鰭酒とか熱燗って、酒に弱いけどちょっと飲みたいって人は案外いるんじゃないかと思うんですよね。
一人暮らしのそんな人向けなんじゃないかと。
チビチビやりながらやっていきましょう。


失敗。

いやね、活かしてる時にも何か入れると速攻で障害物の中に集まってくるのを見てドジョウ以上だと思ったんですよ。
これってもしかしたら加熱しなくても豆腐に潜るんじゃないかって。つまり、地獄豆腐って実はドジョウじゃなくてミミズハゼだったんじゃないかという新しい説がふつふつと湧き上がってきたんですね。
ドジョウで言い伝えられているにしてはあまりにも失敗例しか出てこない、それにしては有名すぎる地獄豆腐だが、そもそも一般人から動きや仕上がりを見てドジョウだと説明するのがいちばん早かったんじゃないかと。この線は今まで盲点だった。

可能性を感じたので、とりあえずボウルにオオミミズハゼと豆腐を入れてみたが、奴ら豆腐の下に集結するだけで入りゃしねぇ。細いストローで豆腐に穴を開けても同様。太いストローで穴を開けてなんとか入ったがこれじゃ意味がない。
ということで伝承にある通り、水に張った鍋に軽く穴を開けた豆腐とオオミミズハゼを入れてゆるゆると加熱していったのだが、やはりドジョウと殆ど同じ行動をとって死亡、画像の状態に至る。(あまりに意味ないので画像や動画は割愛)

都市伝説のドジョウ地獄鍋は本当に不可能なのか」でやった通りの水無し無理矢理地獄豆腐ならば同様に可能だと思うが、あれをやるならばあえてミミズハゼである必要性はない。あえて言うならば、おそらくドジョウよりも臭味がないゆえシンプルに食べられるので湯豆腐にしてポン酢で十分に美味しく食べることができるくらいのことだ。
残念ながらあれの正体はミミズハゼということではなかったようだ。
しかしこの線の考え方はいつか正解に辿り着くかもしれないので心の片隅に置いておこうと思う。


結局のところ、食べるならば万人向けなのはかき揚げですね。
唐揚げや天婦羅で気になった通り、僅かに骨が主張するので玉葱など柔らかくなる素材のみと合わせると気になってしまう上品な方もいるかもしれません。そこで、材料にゴボウをある程度混ぜるとゴボウの歯応えのほうが勝つので骨が全く気にならずバランスよく味わうことができると思います。
かき揚げになっても肝がいい仕事してる。

まぁ、美味しいけどあえて食べる必要もなく、採って遊ぶだけでも十分楽しいのであぶらぎっちょオススメです。

今回の記事だけだと海が荒れ気味で辛そうに見えてしまうので、凪の日に撮影されてる地元ニュースを参考にしてください。


ベタ凪の日ならこのあたりの海岸線にビッシリといると思うと受け皿の大きさを感じずにはいられません。
魚影が尋常ではないので夏休みに富山県東部にお越しの方、または通りかかる方などはちょっと浜に寄って遊んでみると面白いと思います。メインのエサにはイカを使いましたが、イカでなくても魚の切り身でも採れましたし、エサなしでも何匹か採れました。弁当や昼ご飯の中からエサになりそうなニオイの出るものをひとかけら持っていけば楽しめるんじゃないかと思います。
小さなお子さんと遊ぶ際には必要に応じてライフジャケット着用も考え、なにより目を離さないように。

ミミズハゼの仲間は全国に広くいるので、条件さえ整っていれば貴方の身近でも同じことができるかもしれない。
「うちの地元でもやってたよ!」なんて話がありましたら是非教えてください。
おおまかな地方とミミズハゼの呼び名・その遊びの呼び名など教えて頂けたらここにまとめておきたいと思います。
・富山県入善町:あぶらぎっちょ/あぶらぎっちょ採り・あぶらぎっちょ掴みなど
・富山県朝日町:ベント/ベント釣り
・佐渡島相川地域:ゲナラン/同様に素手+イカの他、空き缶を使う方法も
・東伊豆で巻貝を利用して同様の方法で遊んでいた例あり

その後、「捕まえて、食べる」の玉置さんが鳥取で成功してくれました。
イカを握った手を砂浜に突っ込んでミミズハゼを捕りたい(デイリーポータルZ)
こういうのは単に情報に釣られるだけでなく理詰めで身近で辿り着いてもらえるのが本望でありまして、安易に遠方から富山に来ないでそういうとこしっかり押さえてくれちゃうあたりは流石です。

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Comments & Trackbacks

  • コメント ( 45 )
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  1. 初めてコメントさせていただきます。

    今月号の某アウトドア雑誌を読んでいたら、見知った内容の記事が載っていて、
    「あぁこれが例の」とか思っていたら『ざざむしの~』という単語を見つけついコメントを残しに来てしまいました。

    富山県は海水浴なんかでも遊びに行くので
    今年の夏は機会があればチャレンジしてみたいと思います。

  2. 初めてこれやった人の発想がすごいすね。今回も面白かったです。このブログのネタを一冊の本にして出版してもらえると個人的には嬉しいです。てか、ほしいです。必ず買います(多分)

  3. やっぱり、テレビに出てたのせつなさんでしたか!!!
    二重に感動しました!!
    これからも陰ながら応援させていただきます。

  4. 豆腐の中にイカを仕込めば入るんじゃないの?

    • どうなんでしょう。入ったら入ったで物凄い勢いでドリル運動の結果、粉々になった豆腐が散らかりそう。
      なんにしてもあれって心底どうでもいい調理法ですよね。

  5. 佐渡の相川地域では同様にイカの生ゲソを餌にして空き缶にセットしておいてごっそり採る遊びがあります

    記事と同様、素手でも採取して遊びます。地下水棲ですが、河口周辺の方が数が多いらしく、砂利浜に池を掘っておくといつの間にかひょっこりあらわれます。

    なお、当地域においてはミミズハゼ類は総じてゲナランとよばれています

    • 貴重な情報をありがとうございます。ゲナランも初めて聞きました。
      こいつらも種類がいろいろいるので河口以外のはまた別種な気がしますね。いずれにしても同様に捕れるというのは面白いです。

  6. TENGA…TENGAかぁ…。
    獲れるものなのかな

  7. これ楽しそう、やってみたい

  8. 完全にカンディルですねクォレは…
    きもーい!

  9. あぶらぎっちょ…。名付けた人のセンスが欲しいですね。
    イカにデスロールってのも衝撃でしたが、生で胃に入れた場合デスロールされることないのかなと心配になってしまった。

  10. はぜかこちか埋没する系使って加熱せずに一晩か二晩一緒に置いとけば豆腐に埋まるんやないかねぇ
    んで茹でる

  11. 飼っても意外と楽しいんですよねえ
    不注意で死なせてしまいましたが海水産の個体のはずが淡水&人工飼料(金魚の粒エサ)にもあっさり順化してくれました
    この記事でなんであんなに簡単に人工飼料に餌付いたのか解った気がします

  12. TENGA検索しちゃいました…

  13. 途中アクション幼稚園の園児が溺れていたようなのですが、大丈夫なんですかね?

  14. この遊びの為だけに富山に行きたい…ついでにギンポも捕りたいw
    しかし脂が乗ってる訳でも無さそうなのに何で「あぶらぎっちょ」なんですかね…?ヌメリが凄いから、とか?(写真見る限りそうも見えませんが…)

  15. は?テンガ埋めてる様子を笑いながらただ眺めてただけ?自然環境にうるさいセツナなら注意するんじゃねーのかよ。

  16. 初で失礼します
    局地的ながらスゴイ遊び(漁)すね
    テ○ガ+ガルプ液とかどうでしょう(笑)

  17. うわあ今ちょうど富山にいるんだ。やってみたいけど今日は雨ですね。

  18. やってみたい!

  19. 懐かしいですミミズハゼ。しかしこんな方法で捕まえることが出来たとは知らんかったとです。そういえばこのミミズハゼ、初めて捕まえたとき、図鑑で調べようにもイラストがリアルすぎて、ホントにこの魚で正解なのか混乱した覚えがあります(笑)
    なので当時は”暫定ミミズハゼ”という認識でした。
    まあ何にせよ、昔は岩をはぐるだけであんなにワンサカ出てきたこのコたちですが、今はすっかり姿を見なくなってしまい・・・orz

    • 飼育すると塩分無視できるし簡単なので強く感じるけど、繁殖していくとなるとなかなか環境が難しいのかもしれませんね。

  20. 文章のノリが以前に近い感じがしますね(笑)。
    それだけ楽しかったんでしょうねぇ、うらやましい。
    飼い慣らされたクーリーローチの群れで似たような
    遊びをやりましたが、天然で出来るなんてすごい。
    個体密度すごい(^_^;)。

    いいなー、まだまだ面白い事ってありますね(^_^)。

  21. 「あぶらぎっちょ」ww何でしょうこの叫びたくなる響き!
    「純情パイン」と似た引力。

    まさかざざむし。から夏休みの子供向け情報が発信されるとはw
    でもコレは子供とやってみたいですね。

    • なんだよそれって思いますよね。
      富山湾はとにかく凪レベルが高いので尚更こういうのが生まれたのかもしれませんね。
      超ベタ凪の浜に遭遇したことないけど。

  22. あぶらぎっちょ、初めて見ました。読んでもたーのしー!

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