ざざむし。





モンクロシャチホコおいしいです

日本の昆虫食クラスタにはわりとメジャーになった虫がモンクロシャチホコの幼虫である、いわゆる桜毛虫がありますね。
食用とする上で「美味しい」「まとまって採れる」「簡単な調理で良い」という3点が優れているから人気が出たといえます。
昆虫採集禁止の看板が出ている公園でも採集するというと何故か喜ばれたりする不思議があります。
採って喜ばれ、食べて喜べるという良い虫です。


しかし知らない人から見れば、街中の街路樹にもこのように固まってついているだけで忌避したくなるというのもわかります。
でもこの虫、桜を食害するということを除けば基本的に無害なんですよね。触っても刺されない。
ここを理解していて、人体に無害な昆虫と人体に有害な農薬を天秤にかけて前者を選択する自治体も現れており、それはとても良いことだと思います。
実際は程度によるんですけどね。小さな木に大量についてしまうと丸坊主になるまで食ってしまうこともあり、そうなると木の生命力も心配になります。そんな時は駆除してもいいけど、せっかく美味しいので食べると良いですよという話です。

さて、本題の前に前提をお話しておこうと思います。
私の立場は昆虫食に関しても適材適所・臨機応変です。
広まったほうがいいものもあれば、気になった人だけにほどほどに浸透するだけでいいものもあるし、広まらないほうがいいものもあると思っています。また、食べていい・食べたい時や、食べる必要がないとなるものや時があります。
調理法に関しても、理に適っているかどうかの一点に尽きます。手間をかけるに値するものは手間かけますが、シンプルイズベストなものは最小限の手間で終わりです。
モンクロシャチホコに関してはサクラだけを食草とする訳ではなく、ナシ・ズミ・ビワなどにもつきます。養殖も可能となるかもしれませんが、珍重されるのはサクラの香を纏うものだけですので飼料のことを考慮すると過剰に広まっても大発生年以外はあまり意味を感じません。

となると、モンクロシャチホコの場合は美味しいものは美味しいというだけのことですから、興味を持った人は食べてみても良いでしょう。
昆虫食(に限らないけど)を十把一絡げにして広めたい人と食べない人に二分化するのはナンセンスだと思います。

モンクロシャチホコ幼虫の探し方

この幼虫はいれば見つけ易い虫です。
夏の終わりから秋口にかけて、外を歩いている時や運転している時にこんな感じで赤い地面を見たことありませんか?

地面が土や草叢の場所だと上か幹を見て歩くしかありませんが、アスファルトや石畳の場合は赤く散らかった糞が目立ちます。上から降ってきたものですから、桜並木であってもモンクロシャチホコが湧いているところに容易に行き着くことができます。
こんな状態になりますから食害の他に場所によっては糞害もあると言えるかもしれませんが、鳥の糞などと違って桜餅の香りが漂うのが特徴です。

そんな場所で上を見ると、主に先端のほうから坊主になっているのが確認できます。
蟲喰いの葉だけなら必ずしもモンクロシャチホコとは限らず、毒棘を持つイラガなどが大繁殖していることもあるので安易に枝を手にせず、まずは観察してみましょう。

ほら、いますね。
黒くて大きな終齢幼虫です。
これも落ちている糞の大きさからだいたいの想像がつくようになります。

若い幼虫は赤くてより集合します。
採って帰ってもいいんですが、まだこの段階だと身が薄く未消化物の割合が多い。育てるにしても食欲旺盛なので終齢まで肥育するにはかなりの桜が必要です。剪定するタイミングなどで枝が多く貰えるならばそれもアリでしょう。
この頃は触れると糸吐いてすぐブラーンと落ちるものが多い。
枝が折れるような無理をしなくても棒で突けば結構降りてきます。

赤い幼虫が脱皮を繰り返し太った大きな終齢幼虫。
終齢でも最初はモリモリ餌を食べていますが、最終的には糞を出し切って地面に潜り蛹化します。この地に降り始めるちょっと前くらいが採取のベストタイミング。

ちなみに採集には通気性がよくて目の細かい入れ物があると便利。メッシュの細かい洗濯ネットが使い易いですが、不意に押しつぶしてしまうことのないよう考えると両脇に骨の入った100均のブラジャー洗濯ネットが非常に便利です。
街中を汚れたブラジャーネットぶら下げて上下見ながら練り歩く変質者ができあがりますので、散策していて職質受けた時に動揺してしまう人には向いていないかもしれません。
赤いのは威嚇のためにモンクロシャチホコが吐いた体液のシミです。

都合良く終齢幼虫のタイミングで遭遇できる時ばかりではないので、余裕のある限り早めに採集してしまいます。写真はごちゃまぜですが成長段階で分けたほうが餌の食いがいい感じがします。

尚、糞は取り分けて乾燥保存しておくと良いことあるでしょう。

油断すると小さな穴からこのように脱走して部屋中を歩き回るので注意しましょう。
就寝中の奥さんの顔を這われて別居の危機になった知人がいます。

あと、葉は乾燥気味になってくると食いが悪くなります。瑞々しいものを与えましょう。
蛹にしたい場合は湿度を保ったダンボールなどで暗室を作って終齢幼虫を入れてやると蛹化してくれます。

モンクロシャチホコの調理

まず、成長段階で特徴があります。
若齢幼虫~終齢幼虫(摂餌中):未消化の葉が多く詰まっている。→糞出しするor丸ごと調理
幼虫(絶食)~前蛹:未消化の葉がなくなっており身が厚い
蛹:蛹化まもなくは皮が柔らかいが、時間と共に次第に固めになっていく

ということでそれぞれベストな調理法を選択できるとよいのですが、初心者には難しくもあるので、最も簡単なのは揚げることとなります。しかし、桜餅の風味であるクマリンの香りの大部分が飛んでしまうという欠点があります。

揚げて油をとったものに砂糖をまぶしたもの。

グラニュー糖でもなんでもいいと思うが、ほんのり残った桜の香りと甘味が非常によく合い、香ばしくナッティーな旨味が後を追いかけてくる。
前蛹前くらいからの段階であれば、揚げてすぐ食べるならサッと揚げただけで中がソフトなくらいも美味しいが、食べるまでの時間経過が想定されるのであればどうしてもフニャってきてしまうので、しっかり芯まで水分を飛ばしてサクサクにしたほうが良い感じ。

緑茶に最高に合う和菓子的な存在。完全に和だ。
ありがちな話ですが、ヘタに毛をどうこうしようとするのは愚行だというのがいずれわかります。毛なんて飾りです。偉い人にはわからんのです。

初めての人で、揚げて食べてみてある程度食べ物としての認識ができあがったらより風味のよい食べ方に移ると面白いです。


塩茹でモンクロシャチホコ(終齢幼虫)です。

毛もっさもさですが、口に入れても全く気にならないので安心です。たらの芽やクズの芽の産毛のほうが強いくらいで、とてもしなやかで繊細です。ただし、赤い幼虫から黒い幼虫に脱皮した直後などは身が小さいくせにまるでシャンプー乾燥後の猫の毛のようでフッサフサなので、あの段階の幼虫は揚げ一択かなと思います。

人それぞれ趣向は違うと思いますが、私は終齢幼虫終盤~前蛹の脱糞状態のものがいちばん食べ応えと個性のバランスがいいかなと思っています。
茹でた後でも張りのあるこんな感じのやつね。

見てよこの肉厚さ!
噛んで弾けるソーセージのようにパツッとした歯切れ、桜の香りをブワッと放ちながら現れるナッティーでむっちりした厚い肉。これがまだ摂餌中の個体だと半分以上が未消化の桜の葉なんだけど、モンクロシャチホコの未消化物はそれはそれでクマリン全開なので上級者に人気だったりします。


エサを食べなくなった動きの鈍い終齢幼虫をダンボールに封じて真っ暗にしておくと、このように蛹になっていきます。


揚げた蛹は桜の香りの大半が飛んでしまい、ただのサクサクなナッツです。
万人向けといえばそうだけど、べつにこれならモンクロシャチホコでなくてもいいだろってなる。
やはり刺身なんかと同じで個性の生きる食べ方があるならそのほうが良いと思う。


左が塩炒り蛹、右が塩茹で蛹です。


塩炒り蛹はポーカーフェイスすぎてどのくらい熱が通ったのかわかりにくいのが欠点です。
加熱不足はドロドロだし、加熱しすぎればスカスカのサクサクになってしまう。

炒ったことによる香ばしさにナッティーな旨味が合わさって少し芋っぽさも感じるが、腹部に多く溜まっているサクラエキスが不思議な味わいを演出。燻塩も試したけどノーマルの塩や岩塩のほうが生きる感じ。古来から桜の葉の塩漬けが利用されている通り、塩とクマリンの相性っていいんだなと感じるのは日本人ゆえか。


その点、塩ゆで蛹は沸騰させて数分茹でるだけで多少の時間差は問題ないから簡単。塩は簡単に染みないのでしっかりめに入れたほうがいいと思う。

クリーミーだが熱で固まっているフワフワな身と内包されている桜ソースが抜群に合う。
蛹化間もなければ皮も柔らかくバランス良いが、炒ったり揚げたりしている訳ではないので蛹化から時間経過したものだと少々皮が硬くなる。
蛹は塩茹でが最もダイレクトにモンクロシャチホコらしさを感じられると思うけれども、収穫日に差が生じるので蛹化したところから冷凍していって、まとめて使うとベストでしょう。


桜を食べているモンクロシャチホコの場合は中身のバランスが秀逸だと感じる一方、どうしてもサイズが小さく収穫量も知れているので、クスサンやサクサンなどのヤママユや大型のスズメガなどのように中身だけを使用するという方向には使う気がしない。桜の香り成分であるクマリンそのものは合成できる成分なので、分解して使うならば虫じゃなくてもいいじゃないかと思こともあり、最小の労力で得られる最大値を模索する食材だと考える。

蛹化したばかりの蛹の殻の感じは丸ごと食べるのにバランスが良い食感で、いわばイクラをわざわざ潰したりなんやかんやして食べたりしないでしょってのと似た感覚がある。


モンクロシャチホコのもうひとつの楽しみ方はこの糞です。
有名な蚕沙はカイコの糞ですが、漢方と考えずともお茶として美味しいですし、抹茶色素の素にもなっています。桜を食べて育つモンクロシャチホコは消化する段階でクマリンを大量に生成しているようで、この糞にも大量にその成分が含まれていて蚕沙どころではない特筆すべき実力があります。

乾燥しておいた糞に熱湯を注ぎます。
熱湯を注ぐことである程度の殺菌にもなり安心感があります。

すると

こんなに鮮やかなお茶ができます。
湯を注いだだけで桜の香りが広がりますが、口に含むと更に桜並木の下で桜餅を頬張ってる気分になります。

毛虫のうんこだと言わず出したら、きっと「どこのフレーバーティー?」って聞かれるレベルじゃないかと思う。
乾燥したら小分けして真空パックしておくと保存ができるのも良いです。
香り成分のクマリンはネズミに対して毒性を持ち、ある範囲の動物に対して防御の意味があると考えられますが、人間にとっちゃ美味しいというだけで十分です。

ただし、クマリンは肝毒性があるということで長期摂取を考慮しEUでは1日0.1㎎/kgまでと医薬品指定されているそうです。まぁモンクロは季節ものだからそんなに毎日摂取しねぇよっていう感じですが、抗血液凝固作用もあり抗血栓薬の作用を強める可能性があるとかで、関係する病気で服薬・通院している方は注意したほうがいいかもしれません。べつに健康オタクじゃないのであえて書きませんが、むしろ気にするならクマリンの持つ様々な効能のほうが有益だと思います。
なんでも毒と薬は紙一重。


モンクロシャチホコがついてる桜の横にヤブツルアズキが生えていました。
これはアレを作れと言われているようなものでしょう。

野趣溢れる濃厚な極小粒のあんこを作り

モンクロシャチホコ糞茶を冷まして

道明寺と混ぜて加熱していき

塩漬けしておいた桜の葉で包んでオーガニック桜餅のできあがり。

香料皆無なのに餅だけ食べても桜餅の香り全開で、強い粒餡をがっしり受け止めます。
色は着色料使ってないので市販品のようなピンクになる訳もありませんが、脳内色調補正してください。

なんかねー
モンクロシャチホコの幼虫って美味しいんだけど、活かそうと思うと付き纏う桜の香りが何にでも合うとは言い難いんですよね。一見合ってるように見えて、毎年のように各社から出てくる桜フレーバーの食べ物や飲み物ってすぐ飽きない?
ヘタに様々な料理に活かそうとするとああいう感じになるんですよ。
その点、桜餅って安定して年中売ってるじゃないですか。
茹でただけであの風味を持っていて、油がない環境でも美味しく蛋白質を摂取できるってやっぱり凄いことなんですよ。これからも食べたい人だけで楽しんでいきまっしょい。

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Comments & Trackbacks

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  1. おしえて!糞茶の安全な作り方
    にっこうにさらせばいいの?どうやってかわかすの?わかんない!
    たべるゆうきがないからそれしかない……
    とうきょうのってくえる?調布〜世田谷あたりなんだけど

  2. ※1年前の記事に失礼します。
    先日、大きな幼虫を見つけたので、1匹捕獲して試してみました。

    昆虫食の経験が無かったので、今回大きな心理的ハードルをいくつも超えました。
    ・手に乗せてみて、刺されたり手がかぶれたりしないことを確認し、
    ・生きた幼虫を熱湯に放り込んで絶命させる
    ・芋虫を食べる(一気には厳しいので、一欠に刻んで少しずつ)

    味や食感は桜餅の葉と同じでした(味付け無しで煮ただけだったので)
    が、とりあえず1匹食べ切る事ができたので、次見かけたら今度は
    他の調理法を試してみたいと思います。

    それにしても、自分で食べてみると、せつなさんはすごいチャレンジされてるなあ、とつくづく思いました。

  3. ファーブルさん「キンオサムシに食わしたろ」
    昆虫記のマツギョウレツケムシを思い出しました。

  4. 糞をウォッカに漬けたら擬似ズブロッカになったりしませんかね?

    • 葉を2~3日漬けるだけでクマリン全開のいい感じになるので糞でやる意味をあまり感じないんですが、別物が生まれるなら価値あるかもしれませんね。

  5. 桜の香りはクマリンって成分なんですね。
    ジューンベリーにもつくんですよ。
    庭木が一夜にしてやられた敵討ちに、喜んで食べかえしたら、まずくはないけどなんか違うんですよね。
    町内で虫食う人との噂が立って、毛虫発生する度に声かけられます。うーん。

  6. メイガにしてやられた米櫃の糞も、なーんか別に躍起になって除去することもないかなーって思えてきました。
    ありがとう。

  7. なるほど、段ボールの中で蛹化させるのね。勉強になりました。以前、自然に土の中で蛹化させたものを掘り出して食べたら、半分くらいは寄生されていて何者かの蛆が数匹。まともなものもクマリン臭はなくゲオスミン臭がひどくて食べられたものではありませんでした。今年は終令幼虫だけを薄味の佃煮と、オリーブオイルで炒めて塩コショウで食べてみました。まあまあでしたね。
     話変わって、内山さんの昆虫料理研究会で、ラオスへの虫食いツアー参加者を募っています。13日〆切です。残念ながら私は日程が合いません。せつなさんはいかがでしょうか?釣り竿を持っての参加とか。既にこの企画ご存じでしたら悪しからず。LINEでも送ったのですが、通じないようなので、この場を借りて…。
     

    • 最終的には半分近く寄生されてるんじゃないかって感じになりましたが、たまたま偏ってた可能性もあるのでまだなんとも言えないですね。
      ダンボールの中に水入れたコップ置いて密封していたらいい感じに蛹化してくれましたが、蛹化する気のないやつが小さな穴から脱走するのでそこだけ注意です。

      ラオス行きはいいなぁと思ってたんですがちょっと余裕ないんですよね。凄く楽しそうなんですけど。

  8. 貴重なチャンスをありがとうございました!危なくスルーしてしまうところでしたが、おかげで親子共々初芋虫を美味しく頂くことが出来ました!
    一つ残念だったのは息子の学校の桜に湧いていた分が、捕獲しにいった時、後一歩のところで一斉殺虫駆除されてしまい、死屍累々状態だったこと・・・orz
    ヤブツルアズキは生でしたが試してみました。近くに自生していたツルマメと比べると青臭さも少なく、ぼんやりですが甘さも感じました。
    後は糞茶を試すのみ!ココのとこ雨続きなので少し心配ですw

  9. チョウやガの幼虫の糞はほとんど食草だから加熱すれば害は無いな!

コメントしたければしてもいいのよ?(カエストハイッテナイ)

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