ざざむし。





フクラスズメは効率がなぁ…

生物は見た目通りに有毒なものと、見た目に反して無毒なものがあります。
有毒種に多く見られる毒々しいカラーリングを警告色(警戒色)と呼び、擬態の中でも有毒種に似せることで「僕を食べると危ないよ!」とアピールしていると考えられる擬態をベイツ型擬態と呼びます。
それをふまえて、この虫をどう感じるでしょうか。

フクラスズメの幼虫です。
いかにも毒々しいカラーリングで、フォルムだけなら毒針をもつマツカレハなどとちょっと似た雰囲気もありますが、むしろフクラスズメのほうが見た目は凶悪に見えます。しかしこの見た目で無毒なんですよね。
そっくりな有毒種がいる訳でもないっぽいのですが、明らかな警戒色を装備したこのタイプもベイツ型擬態という考えでよいのでしょうかね。


幼虫はすっごい目立つのでいつも気付くのですが、成虫のことは全然知りませんでした。
冬にまん丸くなっているスズメを見かけることがあると思いますが、あれを「ふくらすずめ」と呼ぶんだそうで、フクラスズメの名の由来は成虫の見た目からそのまんまとられたものだそうです。
言われてみれば、わからないでもない。丸っこいというのはそれだけで卑怯である。

しかし幼虫の嫌われっぷりは想像に難くない。
ただでさえ色が奇抜なのに、行動がとんでもない。
外敵の気配を感じると反って威嚇する虫はたくさんいるが、フクラスズメは更にヘッドシェイクする。
しかも口から青汁を巻き散らしながらヘッドシェイクする。
結構な力が必要になるんだろう、青汁を巻き散らしながらヘッドシェイクすると体をキュキュキュッと断続的に引き締めるからか、一緒にうんこもボロボロボロボロ巻き散らしたりする。
そりゃ嫌われるわ。

うっかり脱走でもされたら、家の中だろうと車内だろうとおかまいなし。
ビックリする度に青汁ゲロゲロうんこぶりぶり。

 

横振りもするし、グルグルもする。
おまけに歩くのも結構早いんだけど、頭を高速で左右に振りながら青汁撒き散らしつつ高速前進する奴もいる。
こっちがびっくりだよ。
だがそれがいい。

そこまでしているにも関わらず無毒ということは?
誰しも美味しい可能性を感じますよね。
実際に美味しいんです。
しかしまともに食べ比べたことはなかったので、初心に帰って食べ比べてみた話です。


フクラスズメ幼虫の食草はイラクサやカラムシで、いずれも美味しく食べられ栄養価も優れた草なので本体は勿論のこと未消化物も食べて安心感があります。時期的には9~10月頃に見かけることが多いですね。モンクロシャチホコを探しているタイミングと被ることが多いので、下にも目を向けてみるとよいでしょう。

フクラスズメのいないカラムシは健全な茂り方をしているのですが・・・


食べられた場所はこのように禿げ散らかされてしまいます。
禿げに謝れ。


作物を駆逐して移動するバッタの大群のように食べ進むので、一面のカラムシやイラクサに境い目が見えたらそのあたりに集中していることもあると思います。たくさんいたらいたで、これを逃さず採るのが地味に面倒。


威嚇ポーズだけはちょっとモンクロシャチホコにも似ているけど全然違い、フクラスズメと名にスズメはついているのですがスズメガの仲間でもなくヤガ科です。こうして見ると芋虫系にしてはわりと脚が長くて素敵。


とはいえ、知らなきゃ引いちゃう見た目ですよね。
威嚇以前に速攻で諦めてポロポロ落ちるものが多いので、密集していたら密集していたで網を差し込めば余計なところに当たって非効率。手で全て受け止めれば気をつけていても青ゲロとうんこまみれ。


どんなに注意していてもある程度汚れるのは仕方がない。


とりあえずこのくらいでいいか。
スズメガほど大型な訳でもないから、若いうちに茹でて食べても肉が薄くて青汁ソーセージみたいな感じで個人的には食感がそんなに好きになれない。それは芋虫系にわりと共通して言えることで、あの感じが好きな人はもっと利用範囲が広がるかと思う。茹でるだけなら色も鮮やかに残せるしね。私としては若い幼虫を使うのは山椒やミカンを食べているアゲハみたいに、未消化物が詰め物として優秀に機能する場合くらいにしたいのが正直なところだけど、そこは個人差があると思います。


ということで、恒例となりました前蛹まで飼育していきます。
ペットボトルにカラムシを一束挿して一晩放置。


禿げ散らかすの早すぎやろがーい
カラムシはそこらの堤防や山肌にいくらでもあるからそんなに困らないとはいえ、たかがこの数でこの消費スピードを考えると、よほど劇的に美味くて使い勝手がよくないと生産効率が悪すぎる。


カラムシを新しいものに入れ替えながら飼育していると葉を固めた隙間で前蛹になるものが現れはじめました。
しかし周りを食われて露わになるので意味がありません。通常は地面に降りて蛹になるのでしょうが、土がないから仕方なくこうなっちゃったんでしょうね。
カラムシを入れ替えながら5日目、殆どの幼虫が底面に降りたのでエサ代えをストップ。


糞や枯葉を集めて蛹になる準備をはじめているものと、既に蛹になったものが入り乱れるタイミングになったので味見していきましょう。
とりあえず蛹と前蛹、それぞれ茹でと揚げでよいでしょう。


ひとまず茹でて水切りします。
揚げるものも一旦茹でてタンパク質を凝固させます。これをしなでいきなり揚げると、中身が液化したものや油分の多いものは爆発して中身が流れ出てスカスカのものしか出来上がらなくなります。スカスカのものは酸化さえさせなければ長期保存にも向くのでしょうが、ジューシーだからこそ感じられる旨味を犠牲にしている面もあり、サクサク感に振ることで個性が際立たなくなってしまう側面があります。昆虫を食べた時に単に「エビっぽい」という感想がよく聞かれる原因のひとつはそこにもあるでしょう。
それは一旦茹でて芯まで固めたものを表面だけ揚げることで改善されることは多々あります。
人間でも個性を伸ばす教育は大事だと思いますが、それと似たようなものだと思います。

一旦の塩茹での後、左が揚げたもの、右が塩茹でのみです。
両者、前蛹2頭と蛹2頭です。茹でたほうは脱皮不全の蛹化直後のもいますが気にしないでいきましょう。


茹で前蛹
若干、色褪せたのが残念ではあります。どうせなら派手でよいのに。


ブ厚い筋肉が凄い旨味で、なんといったらいいのか、大豆の風味が炸裂する出来立ての超濃厚豆腐?
白い毛は柔らかく、全く邪魔にはならない。ブツッと切れる皮が若干強めで口に残るのが玉に傷だが、他の食材との合わせ方でかなり化けそう。
若い幼虫だと緑の未消化物がぎっしり詰まっていて筋肉がもっと薄いのでこうはならない。


茹で蛹
肉の風味自体は基本変わってないと思うのだけど、これは皮の香りなんだろうか。蛹になると多くの昆虫に似たような風味が現れるように感じるのだが、フクラスズメも例外ではなくそれを感じる。変態時にできた蛹の皮のキチンの風味なんだろうか、それが明らかに加わっており、肉にも浸透して感じる。薄い殻に変化することで前蛹の時に感じた皮の強さによる口残りは全くなくなり食べやすくなったが、代わりに出現した殻の風味が昆虫の蛹として平凡さを醸してしまっているような気もする。昆虫らしさに対する慣れ次第で好みは分かれるかもしれない。


揚げ前蛹
揚げても基本的な風味は変わらないな。
しかしこの、なんだ、皮の主張ぐゎ…
と思ったらこれか。蛹になる前に体のまわりに纏った糸を取り除ききれてなかったから糸が邪魔しているのか。
糸はしっかり取り除かないと食感がゴワゴワして非常によろしくないことがわかる。


揚げ蛹
生から揚げると簡単に爆発して中身が溶出してしまうけど、茹でてタンパクが固まった後にサッと揚げることでしっかりした蛹揚げができる。
風味自体は茹でたものと殆ど変わらずすこぶる濃厚だが、薄い皮は一体化してサクッと更に食べやすく、そして揚げたことにより香ばしくなったキチン香が加わり、より一般受けしやすそうな味になった。


ついでに脱皮不全でより妖怪人間みたいな見た目になった蛹だけど、味は変わらなかった。ただ、脱ぎきれていない幼虫の皮の部分が非常に硬く不快な食感で、端的に言ってゴミ。


その皮さえ取り去ればすこぶる美味しい。

こうして比べてみると、一般ウケには茹でてからの揚げ蛹、それなりに慣れた人なら茹で前蛹がオススメかなという感じがする。
茹で前蛹は肉感と同時にジューシーさもあり、それゆえに感じられる旨味の広さが数段上だ。皮の厚さもスルメを噛むように噛んでいる間に肉の強い旨味が持続して広がり続けるので、むしろ食べ慣れてくると皮のバランスも好ましくすら思えてくる。

ということでこれは美味いなとパクパクつまんでいたのだが想像以上に濃くて強いようで、食べすぎるとモクズガニやノコギリガザミの強いカニミソを食べすぎた時の「のぼせる」というのに似た、やりすぎた感を身体に感じたのでほどほどの嗜好品として嗜むのがよさそうな気がしてきた。

味的には間違いなく強くて美味い系なんだけど、どうにも見た目が一般ウケ難しそうなんだよなぁ。
ゲーミングカラーの食べ物が受け入れられるようになってきた時代だからフクラスズメの時代がきてもおかしくない。
でも多分無理。そこまで現実見えてなくない。


まぁ、蛹にしても幼虫にしても、いわゆる虫の形をしているというだけでダメな人は意外にいる。
たとえそれが小麦や飴やゼリーでできていたとしても、虫っぽいというだけで本気で食べられない人がたまにいるみたいだけど大丈夫だろうか。
うんこ味のカレーかカレー味のうんこ、どちらか食べないと殺すと言われた時に、そういう人は見た目がカレーだというだけでカレー味のうんこを選んでしまいそうで怖い。とても心配だ。冷静にうんこ味のカレーを選べる、理屈で動ける人でありたい。
そうは言っても見た目が大切なのは十分わかってる。
例えそれが蝋でできていても美味しそうなものは美味しそう。
純粋にプラスになっていれば良いのも確か。蛹も輪切りにして立てるともうなんだかわからない。


チーズかぶってるともうケッパーだかオリーブだか、なんとなく自分の脳内にあるものに誤変換してしまう。
味は強いんだけどしかし旨味の方向は同ベクトルだったので、ピザ的は味にメリハリがなくてイマイチだった。

美味しいんだけど、使い方が難しい虫だなぁ。
いろんな料理に混ぜて使うなら前蛹のほうが使い勝手はよさそうな気がする。強い味でもしょっぱい系なら負けそうにないので炒め物とか。いろいろ試してはみたいけど大食漢すぎて大量養殖は難しいし、今後の課題といったところか。
イラクサやカラムシが瑞々しいので糞も水っぽく、すぐ乾燥させないとカビ易い。


糞茶はカイコよりはクセがあり、甘味がありつつイラクサの青さが香る。わりと上品で濃いお茶になるのだけどモンクロシャチホコのようなインパクトはなく、更には冷めるとあまり美味しくないので温かいのが絶対条件かも。

新しいのを乾燥のみで淹れると濁った緑っぽく、軽く炒るとほうじ茶っぽい色にはなるがベースの風味は似た感じなので、保管するなら炒っておくほうがいいのかも。とはいえ、手間と結果を考えるとあんまり率先して作る気にはならないかな。

こうなってくるとフクラスズメはシーズンごとに美味しい状態の幼虫や蛹をちょっとつまむ嗜好品、それくらいの存在でいいかなぁ。
あの味は間違いなく美味いので、もうちょっと簡単に大量の前蛹が手に入るならば評価はかなり変わるんだけど。味単体で見た評価は高いのに、手間のせいで総合評価ではなんとも微妙と考えざるをえない結果になってしまった。
つくづく、フカヒレやツバメの巣ってずるい存在だよなと思わされる。

なにはともあれ、見た目と動きでものすごくわかりやすい虫だというのは理解してもらえたと思うので、気になった方は食べてみてもいいかもしれません。

ベイツ型擬態って、忌避要素をそのまま受け止めてしまう相手と対峙した場合、不戦の勝ち逃げ要素なんですよね。
しかし一度知られてしまうと、あまりのアピールカラーに目立ちすぎて「わたしをたべて♡」と言っているようなもので、ターゲットとして認識できてしまう生物は彼らの一段階上を行っていると考えることもできます。

という訳で、どんなに美味しいと言われてもフクラスズメは食べるの無理と感じた方、外敵を遠ざける効果が適切に機能しているだけなのでべつに変ではないです。
普通なので安心してください。
カレー味のうんこを選ぶような人にさえならなければ多分大丈夫。

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Comments & Trackbacks

  • コメント ( 21 )
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  1. 面白かったです

  2. 初めまして!鹿児島のさらに田舎の出ですか、まさに土手にあの葉っぱに、あの幼虫がウヨウヨいました。子供の頃、ウロウロして噛まれて(毛に刺されて?)ブツブツができたと思っていたけど、毒なしなのですね。子供の頃のアレは何に刺されたのか‥こいつは特に子供の頃からトラウマに近いレベルで記憶にあるので食える木がしないです(笑)

  3. カレー味のウンコとウンコ味のカレーは、若い頃は後者を選んだ(実行はしてない)が、大人になったら前者のほうが安全と思うようになった。
    ただ、水分摂取の手段が完全に絶たれた非常時には、何かの動物の糞を靴下に入れた絞り汁を飲むという、米軍だったかのサバイバル訓練を知ってから、摂食障害のリスクが高い場合もあるが、重要なのは「誰のw」ではなく「何の」ウンコなのかと考えるようになった。
    虫食はほとんど抵抗がないがそっちの趣味はないので、前述のようなサバイバル状況に陥らないよう余生を過ごしたい(何を糞真面目に語ってるんだ>俺)。

  4. 変わった居酒屋で出たタガメは虫という認識がぼやけた瞬間にサッと食べれたけど中はスカスカで、逆にホッとした覚えがあります。
    逆に味わい深くて濃厚だったら意識が遠のいたかもしれない。
    でもフクラスズメ輪切り乗せピザ、せつなさんの虫記事の中で初めて何の忌避感も無く食べられそうだと思いました。

  5. 凄く良い。
    こういうの読みたかった。

    フクラスズメは美味いって何度か聞いたことあったので、実際に食べた感想見て探す気になりました。

  6. お茶味のウンコ⇒飲む
    カレー味のウンコ⇒食べない

    ・・・!?

    • うちの地元(宮崎県北部)ではかっぽんたん虫と呼ばれていてシーズンには大量に発生していました。獲りに行って欲しいです!

  7. 茹でてタンパクが固まった後にサッと茹でることでしっかりした蛹揚げができる。

    茹でてタンパクが固まった後にサッと揚げることでしっかりした蛹揚げができる。

    の間違いではないでしょうか?

  8. ツイート見てても思うけど、せつなさんは何か最近めんどくさい人になってきてるなあ

  9. あああ!このコ食えるんですね~!普通に騙されてました・・・ベイツ型!また一つ賢くなってしまったです。レッツチャレンジ!
    話は変わりますがウンコの件は納得できますが、サルみたいな広瀬すずさんと広瀬すずさんみたいなサルだと、後者を選んでしまいそうなんですがどうしましょうか?

  10. カレー味のうんこかうんこ味のカレーかは、カレー味のうんこが誰から出た物かで大いに変わると思う。

  11. 糞茶とかできるんだからむしろカレー味のうんこを作ってみてください。
    是非ともお願いします。

  12. カレー味のうんこ→美味しいけど間違いなくなんらかの健康被害を被る。
    うんこ味のカレー→不味いけど身体に悪いと言うことはない。

    どっちも無理やけど不可避の択なら後者を水で流し込むか…..。

  13. 私なら
    「カレー味のうんこ」を選びます

  14. ちょっとフクラスズメ退治してくる

  15. 全国どこでもいますよね?
    なぜか出会ったことがないんですよ。認知してなかったのかなぁ。出会ったら喰ってみます。

  16. 美味しい毒か、不味い不快な食べ物かどっちを食べるって話ですよね

    認識用の4文字が「らんおう」で、卵黄もひらがなで書くと強そうだなぁと思いました(konami)

  17. この前動物園で初めてサソリの素揚げを食べたせいか、茹でたものは普通に美味しそうに見えますね
    経験の有無はやはり重要

  18. いつも楽しく拝読しております。
    途中のうんこ味のカレーのくだり、冷静に理屈で選ぶ方が「うんこ味のカレー」であってるんですかね?(笑) 何度も読み返して脳がバグってどっちが正しいかわからなってしまいました。

  19. こっちがびっくりだよ→だがそれがいい、の流れ笑いましたw
    こんな虫がいること恥ずかしながら知りませんでした、興味深く面白かったです。

  20. ムカデに擬態してるのかなあ…頭とその周りだけ。
    まあムカデの動きとも違うので捕食者が騙される事はないんでしょうけど。

田淵 への返信 コメントをキャンセル

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