ざざむし。

スナヤツメの産卵行動を観察してみました

この春やっとこさスナヤツメの産卵行動を目にできました。
何とは言いませんが、なんとなくこのタイミングでUPしたくないのだけど、せっかく雪深い冬から追いかけてたのでUPします。

スナヤツメは本州にいる無顎類で唯一、生涯を淡水で生活する種です。
唯一といっても近年スナヤツメは遺伝的隔離があり生殖隔離もある2種がいることがわかってきて暫定的に南方種と北方種に分けられたようなのですが、外見で見分けがつかないのでここでは単にスナヤツメとしておきます。
環境省のレッドリストでは絶滅危惧Ⅱ類。
生態からして完全に人間活動の影響で生活域を失っている部類だと思います。


というのも、スナヤツメは4年近い幼生期間を泥の中で有機物を食べて過ごすので三面護岸にされたら終了です。しかも農薬や排水による水質汚染には弱いらしいので綺麗な水が必須。昔ながらの綺麗な小川や水の枯れない用水路が必要なんですね。長く暗い泥の中で、目も鰭もないアンモシーテス幼生を経て4年を目前に変態して成体になります。


成体になると目・歯・鰭ができる代わりに消化管が退化して死ぬまで何も食べることができなくなります。
大人になる時って、いろいろ失うものですよね。ヒトは甘い。


子孫を残すためだけの何も食べられない形態に変化するなんて、まるでカゲロウのような生物。
しかし1日~数日で死ぬカゲロウと違ってスナヤツメの変態は秋~冬にかけて行われ、産卵は3~6月だというのだから小さな体のどこにそんな長期間分のエネルギーを貯め込んでいるというのか。
変態しながら体を縮めていき、生殖巣と最後のエネルギーに変え、その時が訪れます。

・・・が、その産卵のタイミングがわからない。
3~6月って範囲広すぎでしょ。
関東でも東海でもアンモシーテスはいたのだけど、近所じゃなかったので産卵行動まで追えなかった。しかし今年は追いかけられる範囲に可能性を感じるポイントがたくさんある為、豪雪の頃からチェックを続けていました。いることは既にわかっているので、網を使うことなく自然に見られる時をひたすら待ちました。


そして時は訪れたのです。
全く情報なかったので「もしかしたら行かなかった数日の間に終わったのではないか」などと疑心暗鬼になりかけてたところ、本当に嬉しかった。偶然の出会いも嬉しいですが、いつもながら狙っていたものと出会えると格別の嬉しさがあります。


産卵行動を覗く者はまた産卵行動を覗く者に覗かれているのだよコツブムシ君よ。

そして水路に入ってハイテンションに変な体制で硬直してる私は農家のおじいちゃん達に怪訝に見られている。


まずは体を震わせながら打ち付け、底を掘り下げていきます。
この時、石が露出すれば石に吸い付き体を固定して激しく泥質を払い出します。
動かせる程度の小石に吸い付けば産卵床を予定する場所の外へ運び出しているように見えます。が、それは前述の行動の際に体が前進してしまうから自然にそうなっているだけかもしれない。
あと、流れがあるからニオイは下流へ流れている訳で、上流側へ石を捨てに行った個体が迷子になって戻れなくなる光景を何度か見た。目と頭はあまりよくないのかもしれない。


無顎類の中でも円口類と呼ばれる所以、アンモシーテスから変態することで吸盤化した口がここで役に立ちます。
カワヤツメは他の魚類に吸い付き寄生生活を送るので口の構造も納得いくでしょうが、スナヤツメは成体になることで歯のある吸盤状の口に変化しても流下防止と産卵にしか使いません。
なんだか目も死んだ魚のような目をしているのでやっぱり視力もあまりよくないのかもしれない。


ある程度砂堀りが進むと産卵が始まります。
この巻き付く状態、なんて呼べばいいのかわからないんですよ。
変態するとオスには生殖突起ができる訳ですがサメの交接器のように目立つほどでもなく、何度も見たけどバイブレーションしてて体内受精しているかどうかはわからなかった。交接かもしれないし、カエルに近い抱接と考えたほうがいいのかもしれない。巻き付いた尾がスライドしながら卵が拡散する様が何度も見られたので、ニュアンス的には抱接が近いかなと思うので仮に抱接ということにしておく。


卵が拡散しはじめても普通の魚のように精子で白く濁って見えることがないのが気になるんですよね。
薄くても強力なのか、もっと接触して受精しているのか、いろいろと謎。


排卵されたら接触したものに付着するようですが、見ていた感じでは半分以上は流されていました。
こんだけ集まって常にバタバタ暴れてりゃぁ、そりゃそうでしょうよ。わざわざ穴掘って産卵しているので、まさか流されて拡散することまで計算している子達だとは思えない。なんともバカ可愛い。

誰がどう巻き付いてるのか、これは産卵成立せず。巻き付いてりゃいいって訳でもないみたいで無理矢理はダメっぽい。
工事や採取など人間活動も目先だけ考えた身勝手無理矢理もダメですね。
えー、無理矢理はダメですよ。いろいろと。はい。


こんなに近くで見てるのに全く気にする様子もなく一心不乱に穴を掘り、産卵をしていきます。
外敵がいたら根こそぎ食われそうですが、こんな時しか表に出てこないから生き残ってこれたんでしょうね。

珍しく動画もまとめてみたので、じっくり見てみたい方はどうぞ。
ただでさえピント合ってないところも多いのに縮小されると画質グダグダなので、1280✖720HD表示推奨です。


ずっと撮影していて一旦電源止めた瞬間に一面黄色くなるほどの最大の産卵が起こったのが心残り。
通して見ていると決して効率がよい産卵行動をとっているようには思えません。

かといって急に彼らが行動を変える訳もなく、この効率で子孫を繋いでいけるだけの分母が必要なんでしょう。

他の方の動画も見ていて思ったのですが、他ではここまで明確に窪みになるほど執拗に穴掘ってないんですよね。
何故だろうと考えたのですが、植生から見て、この辺りはかなり渇水するんですよ。若干増水している状態で産卵に至っているので、本能的に深い場所をと考えているのかも。だったらもっと深い場所を選べばいいのにとも思うので謎だらけですが。
南方種と北方種は同所的に棲息していても生殖隔離があるというし、種による違いか、もしかしたら地域による特徴みたいなものもあるのかもしれない。


さて、ここに来るような人の中には「なんだ今回は食べないのか」なんて下衆なこと言う人もいそうですが、いつも言ってるけどなんでもかんでも食べる訳じゃないよ。食べる意味を感じるものだけ、その必要に応じて食べるだけ。
スナヤツメはどうかというと、レッドデータ的には世間に騒がれてるほどそこまで絶滅危惧されてる訳でもなく、減ってるところは危険だけど場所によっては結構安定していると思う。もしかしたら下水道の普及によって逆に綺麗になっている水辺もあるかもしれない。そういう意味ではウナギのほうが危機的でしょう。かといってスナヤツメの場合、カワヤツメほど大きい訳でもなし、10数㎝のドジョウ程度ならば資源的に気にならないドジョウ食ってればいいじゃないかということになります。
飛びぬけて美味ければ話も変わるんだけど、減少する未来が想像できるものは再生産の目途なしに「美味い」となるのも考え物なんですよね。

以前うっかり弱らせてしまったアンモシーテスは食べたことあるけど、基本的にはヌタウナギと同じ食感。ただサイズがサイズなのであえて食べることもないわという感じだったので想像つくということもあり、あえて成体を食べるならば産卵行動を観察して、みんな腹ペッタンコになって後は死んでいくだけなんだろうなってのが沢山採れるなら食べるのもアリかなという程度に思っていました。
実際のところ食材としての歴史はあるのかというと、最近でこそヤツメといえば日本ではほぼカワヤツメを指します。しかし食材図鑑として有名な江戸時代の和漢三才図会には鱧(当時はヤツメウナギを指す)が出てくるものの、その大きさが5~6寸を超えるものはいないということになっている。それって本州ならまさにスナヤツメではないですか。「干物にして美味しい」「孫太郎虫の代わりに疳の虫に効く」という話もあり、昔は身近にたくさんいた美味しいタンパク質だったのでしょう。

であれば、せっかく今回は観察してペッタンコになって解散していくスナヤツメまで確認した訳ですし、少しだけ味見しておこうかとは思います。

気持ち的には「お疲れ様」という感じで、余生をどんな気持ちで過ごすのかと思うとしんみりしないでもないです。
とりあえずすぐに死ぬのかどうか、産卵終わったものを2匹持ち帰ってみたものの翌日も翌々日も全く死ぬ気配がありませんでした。解散した後は再び泥に潜り、かといってエサを食べる消化管もないので体力が尽きるまで生きて生きて、泥の中で人知れず有機物へと還っていくのでしょうか。


はい。
まずはシンプルにお吸い物に投入。
すごく油が浮いた。生殖巣が発達する前の冬季だったらもっと脂乗ってるのかもしれない。


やはりヌタウナギと全く変わらない、ムチムチギョリギョリといった歯応えで、いわゆる硬骨魚の骨は感じない。小さいくせに食べ応えは感じるが、残念なことに泥臭い。消化管は退化しているので未消化物は入っていないと思うのですが、一生の殆どを泥の中で有機物食べて育ってるんだから臭味を貯めていても当然といえば当然。
これは干す焼く揚げるといった香りを飛ばす方法のほうが合うんだろう。


片栗粉だけで唐揚げ。
サイズ的にも孫太郎虫ことヘビトンボの幼虫を揚げたのと殆ど変わらず、なるほど疳の虫にっていうのも納得がいく。けど「疳の虫に効く」って結局何か口に放り込んどけばいいってとこから始まってそうな感じするんだけど、そこんとこどうなの?
味はなるほど、こんな小さく何の味付けもしていないのに旨味は感じる。ヌタウナギを小~~~さくしていったらこんな感じになるかなと思わせる。

なるほど確かに調理法さえ考えれば悪くはなさそう。
これが他の食糧も限られていてスナヤツメが身近でいくらでも再生産されていた時代は食料としても意味があったんだろう。今は探して採ってまで食べる意味あるかって言ったら、他にいくらでも美味いものありすぎるし、同じ労力でガサるならスジエビ採って食べたほうがいいよね。
和漢三才図会にあった干したのも、おそらくは棒あなごのミニマム版みたいだと想像できるので不味くはなかろうが、それこそ干乾びたら楊枝か竹串くらいになっちゃうよ。食べ応えを考えるなら最大値になる変態直前の大型アンモシーテスでしょうが、生息環境の狭さを考えるとどうしてもセミの幼虫ほど気楽に食べていい存在にはならないです。
今後も偶然死にかけ大量という条件にでも遭遇しなければあえて食べることもないだろうなぁ。

工事による水枯れや底質の排除で全滅あるある。
生活排水や農薬による水質汚染で全滅あるある。
鳥やイタチによる食害もあるでしょうが、マニアや業者による乱獲があれば生態から考えて食害より影響が大きそうです。追い打ちをかけるように人による食害で減少なんてさせたくない。
一見たくさんいるように見えても歯車が欠ければ崩壊は一瞬。今回見かけた場所だってどこもちょっとしたことで1シーズンで全滅してもおかしくはありません。
普段見えないだけになかなか難しいことではあるのですが、生きた水辺の証である彼らはできるだけ守っていきたいものです。
まずは身近に視線を落とし気付ける心のゆとりが今の日本人には圧倒的に足りてないような気もしますが。

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Comments & Trackbacks

  • コメント ( 5 )
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  1. 子供の頃、何の知識もないままドジョウの亜種かなあって捕まえてましたw
    あのドロドロはなんやろって口に含んだ時の衝撃www
    ぺっぺっぺってなったの覚えてますw

  2. 何も食べないのに歯が生えるなんて不思議ですね

  3. 昔食べた八ツ目鰻の蒲焼きが滅法旨くて忘れられず。
    ネサフの末長野の水産業者に辿り着いたら『富山県の八ツ目鰻(スナヤツメ含む)は絶滅しました』とか言うとったが今頃になって生きとるにかよ!
    と真っ先に突っ込んだ後、産卵動画のせせらぎを聴きながらなんとも言えん気分になりました。
    こっちの小矢部川にも居ったんやで(-_- )

  4. 随分前に亡くなった祖父が毎年1匹だけ冷たい川に素足で入り、小石や泥を少しづつ退けながら足指で掴んで捕って焼いて食べてました。
    私の幼少時ですから40年以上前です。
    私自身は口みたいな処がアレだった為「蛭を連想」し食べなかった事が悔やまれます。

    畑に迷い込んだ白鳥を追い払いに行った祖母が翼で張り倒され、農具で突進した勇ましい祖父の姿を思い出しホロリとしました。
    忘れていた記憶も一寸した事で思い出すモノですね。

    更新を楽しみにしています。
    ※せつなさんが海釣りに行く度に暴風雨に見舞われているように感じます・・・・・・せつなさん、ルドラの化身ですか?www

  5. ヤツメウナギは図鑑でしか見たことが無いので興味津々でした。サイズにも驚かされましたが、何より産卵がウグイスさえずる日中に行われているとかビックリです!!(イメージでは深夜でしたので)随分張り込まれたんでしょうね~。こんなチャンスにめぐり合うと緊張と喜びが同時に押し寄せますもんねwうらやましい体験です。

コメントしたければしてもいいのよ?(カエストハイッテナイ)

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