ざざむし。





ざざむしは酒の友に

ざざむしについてはあまりに有名すぎるので、いままであえて書いてこなかった。
12月に入り、長野でざざむし漁が解禁になったせいか話題によく聞くようになった。
長野県民ですら食べる人が減っているのは食糧事情や趣向の変化からも明らかだが、そんなことよりもいまだに毎年「ウスバカゲロウなどの幼虫」とか説明しちゃう人が結構出てくるのが悲しい。
ウスバの幼虫は超有名なアリジゴクだから川にいませんよ?

ざざむしの佃煮は高価なので、「製品」としてはそう何度も食べたことはないのだけれど、川虫の総称とはいえ製品の大部分がヒゲナガカワトビケラだと思う。
実際にはカゲロウやカワゲラからヘビトンボまで何でも食べられるし混獲されるから、製品用にはある程度分別されてるんじゃないかと思えるヒゲナガカワトビケラ率の高さ。
自分で採って作って食べる場合にはあまり気にする必要はない。
とはいえ、よく考えたらわざわざこの時期に川虫採りなんてしたことがなかった。

よく「わざわざザザムシなんか食べなくても」という声もあるが、確かに今ではもっともな話。
だが貴重な蛋白源として考えると、食料が少なかった時代には優れた食品だったことは確かだろう。
通常ならば虫は釣り餌にして魚に変換するほうが効率が良いが、渓流の殆どは資源保護のため秋以降は禁漁だ。
昆虫枠で考えるとイナゴもいなくなり冬を迎えた12月以降では陸上の昆虫はほぼ皆無。
凍結の可能性もあるほど水温も低下していくので、ざざむしについてデータがあるかどうか知らないが冬になるほど体内の脂肪や糖類が増すことは十分考えられる。
その上、猟に参加しない女子供でも採集は可能。
もはや言うまでもなく昆虫は様々な必須アミノ酸が多く含まれているので、通常の食材に追加すればむしろ栄養面では豊かであったという考え方もできる。

せっかくだからこの時期のざざむしを採ってみよう。
ざざむしこんな感じで、石の折り重なったようなところで小石を糸で紡ぐようにして生活しているのが多くのトビケラの仲間。
余談だが、今年この糸から「ざざむしシルク」という新規蛋白質遺伝子が発見された。
細く強靭な糸で小石を紡ぐのでダムの目詰まりを誘発するなどして害虫扱いもされる。
トビケラの仲間にはミノムシのような巣を作るものもいる。
カワゲラ・カゲロウ・ヘビトンボなどは巣も作らず石の裏を歩きまわっている。

石の下流に網を構えて石を返しガシャガシャすると虫が網に入る。
網がなくてもゆっくり石を持ち上げれば、石の裏にくっついてくる。ざざむし01もこもこ。
やっぱりヒゲナガカワトビケラだらけだ。
そして、わかった気がした。
夏なら簡単に採れる大きなカワゲラが全くいない。
川虫の総称とは言ってるけど、この時期のカワゲラなんか殆ど5mmくらいのばかりで極小すぎて食べるに値しない。
これじゃぁトビケラの仲間が主体になるのは必然だと思う。
ざざむし02あとはヘビトンボね。
トビケラよりも川の綺麗さの指標になると思う。
肉食性で他の虫を食べていて、出血レベルで噛むことで有名。

ざざむし漁が冬季だから、もっとたくさん採れるものかと思ったが意外に全然採れなくて、むしろ夏より少ない感じがした。
1時間半くらいやって50匹程度。
多い場所にはもっとたくさんいるんだろうが、冬に一桁水温の渓流で冷たい思いをしてこんな漁獲量では高価になっても当然だと思う。
ざざむし03
ざざむしと言えば佃煮だろう。
殆どの人はこれしか知らないのではないか?
保存食なのだから当然なのだが、この季節に佃煮を大量に作るほどの漁獲を考えると本当に大変だ。
1匹1匹に感謝して頂きたいと思えるようになりそうだ。

味は佃煮なので甘辛い味に昆虫独特の風味が混ざるのだが、独特の虫臭さと枯草臭さのようなものが香る。
これは落ち葉などを食べる植物食性によるものだろう。
気になる人は多分この風味が最大のネックなのかなと思う。ざざむし04無難な唐揚げ。
少しだけしかない時は揚げるのが最も楽な方法だが、トビケラはスッカスカになるだけで天カスみたいになってしまうので、揚げて食べるのならヘビトンボやカワゲラがオススメだ。
トビケラやカゲロウに対してヘビトンボやカワゲラは肉食で外骨格も厚く固めなので揚げるとよりパリッとする。
ヘビトンボボディーはフニャフニャで水分が多いが旨味も強く大型になるので、揚げればサクサクと食べ出がある。
小エビの頭のほうを食べているに近い味わいで万人向けだ。
だいたいサワガニもいるような川が多いと思うので、一緒に揚げてしまえばいい。

しかしこうして比べてしまうとサワガニですらカニの美味さは飛び抜けてると実感させられる。
サワガニうめぇ。
残念ながら川虫の惨敗だ。

正直、ざざむしは現在では生きる為の保存食というよりは嗜好品という位置づけになってしまったといえる。
だったら、もっと素材を生かした道はないものだろうか。
ざざむし05とりあえず茹でただけで味見してみよう。
色はやはり鮮やかなナス色で良いね。
5秒だけ茹でたものをそのまま食べてみる。

・・・っ

なんだこれw
想像では蝶や蛾の幼虫のような肉感かと思っていたが、皮が非常に薄いのにパツッと噛み切れない。
それでいて中身はすんなりと両サイドに逃げる。
だから抵抗もなくスッと歯が入るのに、押し戻す抵抗も感じないままに元に戻る。
しっかり磨り潰すように噛むと千切れるが、これはなんていったらいいんだろう。
超薄コンドームに詰まった枯草臭い白子?

それなのに頭のほうだけ虫らしい外骨格だから食感がバラバラ。
ポン酢でいくと風味は少しまとまった感じになるが、殆どただのポン酢味になってしまう。
正直、微妙すぎるwww

ざざむし06
茹でてから塩麹で2日間寝かしてみた。
塩分のおかげで体内から水分が抜けて3~4割縮んだ感じがするが、おかげで噛んだ時の変なフニャ感は落ち着いた。
バッタの腹だけを茹でて食べてるみたいな感じだ。
醤油も使わないのでチャームポイントの円らな瞳がハッキリ見えるのも佃煮より好ポイントだ。
ただ、佃煮のように甘辛い味で誤魔化されていないので、一噛みすると美しい渓流の川面を落ち葉が流れる風景が脳裏に広がる。
若干、上級者向けかなと思う。

ただ、微妙に特有な昆虫臭さが気になるので、茹でるより炒めてから漬けたほうが香ばしくて良いか?
ちょっと次回への課題かな。

おそらく、酒のアテとして食べた時にこの香りが生きる組み合わせってありそうな気がするんだよね。
酒に詳しい人にはこのへんを探ってほしい。
セットで薦められれば販売店も助かるだろうし、互いに持ち味を生かせて一石二鳥だと思うのだが。

ざざむしに限らず、長野に伝わってきた食虫文化はそのままの姿で味わうものばかり。
ゲテモノという感覚ではなく、純粋に珍味を生かしきる方法で伝統が残っていくことは、いつか昆虫食に慣れねばならなくなった時に自然な移行を手助けすることにも繋がると思う。
途絶えてほしくないなぁと思うのですよ。

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Comments & Trackbacks

  • コメント ( 11 )
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  1. 下伊那出身者ですが、川沿いのコンビニには夜間に成虫がめちゃくちゃ集まってますね
    中学生の頃に授業の一環で天竜川で取りましたが当時は食べる勇気は出ませんでした
    道の駅にたまに佃煮が売ってるのでいつかは挑戦してみたいですね

  2. 今はともかく昔?は、ざざむし食べるのはたぶん「貴重な」タンパク源というより趣味とか遊びかと思う。
    海はなくとも諏訪湖やら天竜川やらで魚は獲れますし。
    子どもが川遊びのついでにとってきて母ちゃんに佃煮にしてもらう感じ。上級者の標的は蜂の子(クロスズメバチ)ですw

    あ~でも他では食わないものを食ってるわけだからタンパク源には変わりないな~(゚-゚)
    他県の人は「蛇」「蛙」「虫」のどれかを食べるとしたら何を選ぶんだろう?
    虫はイナゴ、蜂の子、ざざむしのランダムでw

    • 昔がいつ頃を指すのかにもよるでしょうが、天竜川上流界隈の皆が諏訪湖に行けるでもなし、遊びでもおやつや食事の一部を置き換えているのであればタンパク源でいいと思いますけどね。

  3. かの高名なざざむしがこんな形でリニューアルをしていた
    なんて知りませんでした。
    仕事の都合により、約7年ほど伊那に住んでいた事があり、イナゴの佃煮を正面から見て
    これはきっと仮面ライダーの幼虫に違いないとか馬鹿な
    事を考えながらモシャモシャしておりました。
    イナゴの佃煮は、スーパーで普通に売ってたりします。
    ざざむしは高級品で、もっぱらお土産として友人達に
    配っては、イヤゲモノとして忌み嫌われておりました笑
    何とも言えないあのエグみが癖になるんですけどね…

    今後も拝見させて頂きます。

  4. サイトが復活してると風のうわさで聞いてやってきました。復活おめでとうございます!

    以前水質調査がてら綺麗なところで捕ったヘビトンボをフライパンで炒って食べたことがあるんですが、割とほっくりしてて美味しかったような思い出があります。
    …いうなればシシャモ(の卵)?完全に酔った勢いだったので怪しいですが…w
    ヘビトンボの幼虫はフォルム的にもかっこいいですよねえ。

    • いつ消えるとも知れませんけどねw

      ヘビトンボの幼虫は普通に美味しい部類ですね。
      むしろヒゲナガカワトビケラよりずっと美味しいのではないかと。
      食感は全く違うけど、確かに味は魚卵寄りかも。

  5. >気になる人は多分この風味が最大のネックなのかなと
    うーん、見た目じゃないですかね(笑)

    あまり頻繁に虫を食べないので詳しくないのですが、以前に
    下諏訪のみなとや旅館で食べたざざむしの佃煮は良い味で、
    鮎のうるかのような香りが楽しめて日本酒が進んで堪りませんでした。

    珍味として生き残るのは無理がなくて良さそうですね。

    • 見た目でダメな人は論外ですから。
      ざざむしに限らず、不味そうだけで口にしなかったり顔に出たりする人が結構いるけど、そういう人って恥かしいから日本から出ないで欲しいと思っちゃう。
      食って不味いんなら仕方ないと思うけど、それもイメージに負けてるならその人の問題だろうし。

      そんな良い風味のざざむし食べたことないですけど、味つけなんですかねぇ。
      凄く美味しい味付けで仕上げるおばあちゃんとかいそうだなぁ。

  6. 去年、秋川で採ったヒゲナガを塩茹でで食べてみましたけど、ポンテギの生臭みと、落ち葉の香りを濃縮したような強烈な香りにリアルに戻しかけました。やはり川の綺麗さは重要なのでしょうね

    • 食ってるものから考えるとカブトムシの幼虫のような蓄積をしそうなので、堆積物の質でだいぶニオイは変わってきそうですね。
      手を加えないほうがクセが強いってのは、長野四大珍味の中でいちばん扱いにくい感じがします。

コメントしたければしてもいいのよ?(カエストハイッテナイ)

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